【連載】コロナショック下で企業が生き抜くための資金繰り対策③

会計・監査

P/Lから考える資金繰り施策(P/Lアプローチ)(2)

費用削減の優先順位づけ

 ここでは、P/Lアプローチによる資金繰り施策検討法のうち、主に費用削減方法にフォーカスして解説する。

 前頁で解説した“収益の増やし方”は、顧客など相手方の意思が必要になるため、自分の一存のみで一朝一夕には増やすことが難しい。

 しかしながら、費用は、法律や契約で縛られている一部の例外項目を除き、基本的には自分の意思のみで明日からでも削減することができるため、まっさきに検討される経営者も多いのではないだろうか。

 ただし、削減する項目や順番を見誤ると、資金繰り改善効果がないうえに、売上が落ち込んだり、ビジネスパートナーが離れ事業存続危機につながるなど、削減前よりも経営が悪化するリスクがあるため注意が必要である。

 そして費用の中には商品仕入代金のほか、人件費や家賃、水光熱費や税金など様々なものがある。これらの費用の中でいったいどの費用から削減を検討していくべきか。

 費用削減の優先順位づけについては、企業の在り方によって一概に答えを出すことはできないが、ここでは1つの考え方として、次の2軸を用いた優先順位づけの考え方を紹介する。

 1)(近々の)収益獲得・事業存続への貢献度
 削減したら、収益減少に直結したり、事業存続に悪影響を及ぼす可能性が高い費用か否か。 

 2)金額的重要性
 P/L費用の中に占める金額的な割合が重要か否か。

 この2軸を使って、4つの象限をつくり、それぞれの象限ごとに、自社の費用について何が当てはまるかをプロットして優先づけをしていく。

【優先度1】

 まず、金額的に大きく、近々の収益獲得・事業存続への影響が小さい(ないし間接的な)ものから優先的に削減検討する。こういった項目は、資金繰り改善効果が大きいわりに事業存続への痛手が少ないからだ。

  • (オーナー社長の)役員報酬1
  • 広告宣伝費
  • 研究開発費
  • 新規事業のマーケティング費用

【優先度2】

 次に(もしくは優先度1と併せて)近々の収益獲得・事業存続に影響しにくく、金額的には重要でない費用を削減対象としていく。これらの費目は優先度1と同時に削減対象としても問題ないが、削減努力のわりに資金繰り改善効果が低い点が特徴である。

  • 交際費
  • 会議費
  • 福利厚生費

【優先度3】

 優先度1・2の削減を行っても、なお資金繰り改善施策として十分でない場合には、いよいよ近々の収益獲得・事業存続へ影響しやすい費用の削減を検討していかざるを得ない。

 ただし、こうした施策は、“継続的ビジネスパートナーが離れる”、“後日値上げなどの報復を受ける”、“人材が離れていくことでかえってリクルートコストが高くつく”、“労働に関する法律上の問題が生じる”など、痛みやリスクを伴う施策になる。

 そのため、いきなり取引を中止したり解雇に踏み切るのではなく、専門家に相談したり、相互協議のもと取引規模を減らしていくなど段階を踏むことが重要だ。

 また、事業が正常化したら、元通りの取引条件に戻していきたい意思も併せて伝えておくことが信頼関係維持のためには重要である。

 まずは、販管費等に占める金額的割合が大きいものから削減検討する。

  • 事業の部分的・一時的縮小 / 閉鎖
  • 拠点の閉鎖・統合
  • 人件費の削減

【優先度4】

 優先度3の削減でもまだ足りないのであれば、さいごに、金額的には小さく、事業へ影響しやすいものを削減していくことになる。

  • 管理諸費

 上記の優先順位はあくまで例示にすぎない。このほかにも、下記のような評価軸を用いて各優先度の中でさらにスクリーニングをかけることも可能であり、会社の実情にフィットした評価軸を組み合わせて、削減すべき項目の優先順位づけをしてほしい。

その他の評価軸の例
  • 削減の実行難易度
  • 時間軸
  • 固定費 vs 変動費

痛みを最小減にとどめながら費用削減していく方法

 基本的には、上記で解説した優先順位づけのフレームワークに従って費用削減していけば、痛みを最小減にとどめながら費用削減(資金繰り改善)していくことが可能であると考えられる。

 ただし、ここではさらに踏み込んで、費用の中でも金額的に重要かつ、事業への影響度の高いと思われる“人件費”について、痛みを最小減にとどめながら費用削減していくアイデアとして、“雇用調整による人件費削減”を紹介する(実行にあたってはかならず法律の専門家のアドバイスを受けるべきである)。

 この“雇用調整による人件費削減”とは、一時帰休など、雇用関係を維持しつつ、就業時間の全部または一部について、従業員に自宅待機(休業)を命ずることで、給与の一部を削減する方法である。

 労基法上、「使用者の責に帰すべき事由」となる場合、「平均賃金の100分の60以上」の休業手当の支払が必要となる。逆にいえば企業側としては給与の40%の人件費カットが可能となるのだ。

 さらに前頁でも紹介したとおり、一定の条件を満たす事業者については、国の雇用調整助成金制度を活用することで、休業手当の最大3分の2を補填することが可能となる(※2020/4/1~6/30まではコロナ特例措置として、最大10分の9を補填)。

 ■通常の雇用助成金活用ケース

■コロナ特例措置の助成金活用ケース(20/4/1~6/30)

 このように助成金の活用により、通常時と比べ、なんと従業員を維持したまま最大80%(特例措置の場合94%)のコストカットが可能となるのだ。

まとめ

 いまだ先行きが見えない不安が続くことが予想されるが、この未曾有の経済危機の中でも“ピンチはチャンス”ととらえると、少しは前向きな見方ができるのではないだろうか。これを機に、資産や事業の整理をしたり、働き方を変えることで、事業環境が正常化したときには、もっと強い企業になっているのではないか、とも考えることができる。

 今回紹介した資金繰り施策は必ずしもすべての会社に通じるものではないかもしれない。しかしながら、『Collegia流 B/S, P/Lからの資金繰り検討フレームワーク』は、自社にフィットした資金繰り策を探していく際にきっと役に立つのではないかと期待している。

 この危機を乗り越えた先にもっと強い企業になっていられるように。いまは何としてでも生き残るべく、一緒に頑張っていきましょう!

  1. 税務上、原則として役員報酬は毎月一定額である必要があるが、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」がある場合は減額が認められる(法人税基本通達9-2-13)。

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