コロナは経理をどう変えるか②:決算・監査の常時化で真のリスクマネジメントを

Opinion

タイムリーなデータ異常値の把握

データのチェックを常時化する

 会社組織においては、経営者による内部統制の整備と会計監査人や内部監査室等による事後統制によって、会計データに誤りがないかをチェックする仕組みが構築されている。しかしながら、これらのチェックの仕組みはもっぱら会社の粉飾決算によって損害を被る外部のステークホルダー(株主、債権者、取引先等)を保護するための官製規則に基づくものであり、実態としては会社のリスクマネジメントのために準備されているものとはいいきれない。

 最近注目されているのは、記帳された過去データを事後的な監査でチェックするという伝統的なアプローチではなく、AI等の最新技術を活用したアプローチである。これにより、人間の目視に頼らない事前チェックを日々実施することが可能となる。日々発生する取引データの異常値を常時把握することで、チェック作業(会計監査業務)を期末に集中させないようにする取組みが徐々に進みつつある。

 機械は24時間365日休みなく働いてもパフォーマンスが落ちることもないし、システム運用コストもそれほど変わらない。監査は、これまでのような人海戦術に基づく生産性の低い単純なチェック業務から、専門的な判断を伴うより付加価値の高い業務へと高度化し、その付加価値に対して報酬を支払う方向にシフトしつつある。それを実現するためにも、前節でも論じたように会社の会計データをデータセンターに集約し、会計監査人とデータを共有することで、AIによる監査を日常的に実施できるような環境を整備する必要がある。

モノのチェックすら常時可能に

 今回のコロナウイルス感染拡大によって、監査法人からは「意見表明を行うにあたり十分な監査を実施できない」として、監査報告書の提出時期を遅らせる、または監査意見表明を限定するなどのアナウンスがなされることが予想される。売上債権や金融債権などの実在性確認や在庫・資産の現物チェック、ならびにこれに伴う監査調書の作成に時間を要するというのが主な原因である。しかし、こうした監査上のチェック作業をクライアントの手間をかけずに日常的に実施することができれば、期末の監査手続もスピーディーに実施することが可能になる。

 例えば、部品・製品在庫の物理的な移動や機械設備等の稼働状況なども、モノの状態を把握できるIoTデータによって、コストをかけずに日常的に取得可能である。現物の実在性チェックを自動化することは監査の効率を上げることにとどまらず、管理に携わる人(人的コスト)の削減にも資するだろう。また、グローバル・サプライチェーンの効率化による工場の稼働率の向上や、製品のアフター・メンテナンス・サービスの向上など、ビジネス面でのメリットを享受することが期待されている。

 会計データ(お金)の動きの根底には、ヒト、モノ、社会、自然の動きが存在する。地震や台風、疫病等の災害によってヒトやモノの動きが物理的にストップする、社会や世論の動きによってヒト(消費者、顧客など)の動きに変化が生じると、数カ月後には、会計データにも影響があらわれる。

 これからのリスクマネジメントにおいては、異常値を常時把握することでこれらの因果関係の中で、不測事態が発生する予兆をタイムリーに感知して事前に対策を打つことが重要だ。そこで、経理に求められるのは、しなやかでリスク耐性の高い環境の構築を通して、企業のレジリエンス(回復力)を高めることである。

リモートワークの環境整備

リモートワークへの不安・戸惑い

 経理スタッフに限らず、今回のコロナウイルス感染拡大防止対策として、在宅での勤務を余儀なくされている人は多いだろう。一般的にみると、経理業務は直接、モノを製造したり顧客を相手にしたりする業種ではないため、リモートでの業務に適したサービス業務と思われる。しかしながら、わが国では、経理のリモートワーク化は進められてこなかったため、マニュアルベース、紙ベースでの仕事が常態化し、オフィス勤務でのFace to Faceコミュニケーションが前提となっている状況にある。

 今回のコロナ禍で在宅勤務を導入するにあたって、経理スタッフの多くが不安に思ったのは、①リモートでのネットワーク環境の使いづらさ、②縦、横のコミュニケーションの取りづらさ、③会社に保管している資料へのアクセス、さらには④自宅の作業環境の不備などではないだろうか。

デジタル化は実務に耐えうるレベルに進化している

 しかし、①、②、③に対しては、現在では技術の向上によって、セキュリティの保たれたオフィス環境を自宅にデリバリーすることが可能になっている。SkypeやZoom等のWebアプリケーションによって、チャットやWeb会議等のインターネットを介したコミュニケーションが実務に耐えうるレベルに達している。

 また、セキュリティPC(シンクライアント端末)による社内メールや共通ファイルフォルダへのアクセスをすでに確保している会社も一定数あるだろう。④の自宅での作業環境の整備については個人投資ということになるが、シェア(サテライト)・オフィスの活用という選択肢も注目されているようだ。

 さらに、領収書や請求書、発注処理に係る見積書、請求書、納品書の電子化、電子認証(タイムスタンプなどによる改ざん防止機能)によるワークフローのデジタル化によってペーパーレス環境を実現することは、リモートでの作業環境を強力に後押しする。また、社内承認手続のハンコレス化(印鑑の廃止)についても国家レベルで早急に制度化が進んでいくと思われる。ハンコレス化は、紙媒体のデジタル化を後押し、保管や処理に係る労働時間の削減に寄与するであろう。

リモートワークはコスト削減にもなる

 いずれにせよ、今回の半ば強制的な在宅勤務の導入によって、高額な通勤コスト(通勤費と時間)を費やして、自宅とオフィスを毎日往復することに疑問を持つようになった方も多いのではないだろうか。リモートワークにより、効率的に業務を遂行するということが当たり前になるのかもしれない。

 ペーパーレス化を推進していつでもどこでもデータにアクセスできるようにする、オフィス自体も完全にフリーアドレスにする、各自の固定電話を安価な携帯電話に切り替える、といったことにより、バックオフィスコストを低減することが可能になる。当然それは、業績向上にも寄与することになりうる。業務遂行のフレキシビリティ(柔軟性)がますます重要になるだろう。

 業績検討会議や決算報告会などの会議もリモートで実施することで、対面イベントの極小化を図る。対面での会議は、物理的な拘束を伴い、多くの場合時間も浪費する。電話会議・Web会議であれば物理的拘束の程度は弱くなるが、それでも多くの労力が必要になる。とりわけ海外の会社等とのミーティングは、事前の調整を含めて負担が大きい。米国と欧州とをつないだ電話会議などを開催すると、それはもう大変だ。深夜・早朝の会議出席が前提となり、各国の参加者に負担を無理強いすることにつながりかねない。単なる成果報告イベントや幹部メッセージ等は動画による配信で十分だろう。

 秘匿性が高い、もしくは法令で定められている対面イベント(例えば取締役会や株主総会など)を除き、社内会議はリモートでの開催を原則とすることで、時間的コストはもちろん、会場を準備するスタッフの労力削減等、効率向上に寄与することができる。Face to Faceでのミーティングの有効性を否定するわけではないが、情報共有を目的とした会議を中心に業務が組み立てられているスタッフ部門のワークスタイル改革において、リモート会議の有効活用はキーポイントである。

データセキュリティとガバナンスの重要性

 次ページでは、リモート環境に潜むデータ漏えいリスクへの備えを検討する。

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