スタートアップ企業が活用したい公的支援策(融資/補助金・助成金制度)

助成金

EDiX株式会社/江戸川公認会計士事務所
執行役員/パートナー
公認会計士 馬場正威

はじめに

 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大による影響は、営業停止や外出自粛による直接的なものだけではなく、サプライチェーンの分断等を通じて、あらゆる業種に及んでいる。そのような中、政府は、4月30日に過去最大規模の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を盛り込んだ2020年度第1次補正予算を成立させ、これに続き、5月27日に第2次補正予算案を閣議決定した。

 緊急経済対策における支援策には、主に①融資による支援、②補助金・助成金の支給、③出資による支援があるが、様々な制度があり、自社にどの制度が適用できるのか、情報を整理しきれない企業も多いのではないだろうか。

 また、融資や補助金等の支援策は、売上高の減少を要件とする制度が多いため、投資先行で前年の売上がほとんどないスタートアップ企業の場合、資金繰りに窮しているのにもかかわらず十分な支援を受けられないという声がある。そこで、本稿では、新型コロナ対策の支援策のうち、スタートアップ企業にも活用しやすい制度を中心に取り上げる。 

 以下、第2次補正予算案の成立を前提に解説を行うが、国会の動向次第では内容に変更がありうる点に留意されたい。また、本稿で紹介する以外の制度や最新の支援策については、経済産業省の下記サイトのほか、地方自治体や各金融機関のWebページを確認されたい。

経済産業省「新型コロナウイルス感染症関連」特設ページ

活用を検討したい融資制度

 融資については、期日が来れば返済の必要があり、通常は利払いも発生するため、安定したキャッシュフローが見込めないスタートアップ企業の利用は慎重であるべきで、利用する場合であっても当面の資金繰りに必要な額以上の借入は控えることが肝要である。また、有利子負債の増加により利息の支払いが増えると、その分利益が圧縮され、上場やM&A等のEXIT時の株価算定に悪影響を与えることにも留意が必要である。

 そもそもスタートアップ企業では、売上が上がらないまま先行投資により赤字が続いている場合が多く、担保がない、社歴が短い等の理由もあり、金融機関の審査が通りにくいという課題がある。また、第1次補正予算の支援策では大幅な売上高減少の要件等を満たさず、制度を活用できないといった問題点が指摘されていた。こうした課題を受け、第2次補正予算案では資本性劣後ローンと特別貸付および危機対応融資がそれぞれ新設、拡充されており、スタートアップ企業においても活用しやすい制度が整備されたといえるだろう。

資本性劣後ローン【新規】

 資本性劣後ローンは、資本的な性格を持つ負債であり、業績に応じて金利が変動するのが特徴である。第2次補正予算案に盛り込まれた資本性劣後ローンは、従来の資本性劣後ローンと比較して、黒字の場合の金利の大幅な引下げ、当初3年間の金利の固定化、融資限度額の増額等が行われているため、スタートアップ企業にも使いやすい制度になっている。

取扱機関日本公庫1、指定金融機関(商工中金2等)
融資対象者新型コロナウイルス感染症の影響により、キャッシュフローが不⾜するスタートアップ企業や⼀時的に財務状況が悪化し企業再建等に取り組む企業
貸付限度額日本公庫(中⼩)・商工中金7.2億円、日本公庫(国⺠)7,200万円
貸付期間5年1カ月、10年、20年(期限一括償還
※繰上返済不可
貸付利率当初3年間⼀律、4年⽬以降は直近決算の業績に応じて変動
(例)日本公庫(中小)・商工中金の場合
当初3年間および4年目以降赤字:0.5%
4年目以降黒字:2.6%(5年1カ月、10年)または2.95%(20年)
担保・保証無担保、無保証
(出所:経済産業省「令和2年度第2次補正予算案等(経済産業省関連)の概要」

特別貸付および危機対応融資【拡充】

 日本公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」および商工中金等による「危機対応融資」は、当初3年間の金利が基準金利▲0.9%、無担保、5年以内の据置期間有、繰上返済可という条件のため、スタートアップ企業にとっても比較的使いやすい制度である。

 売上高が20%以上減少している中小企業等、一定の条件を満たす場合は、「特別利子補給制度」を併用することで、当初3年間【日本公庫(国⺠)】3,000万円(拡充後4,000万円)、【日本公庫(中⼩)・危機対応】1億円(拡充後2億円)までの利払いが実質無利子となる。また、売上高が15%以上減少している場合は、「危機関連保証」の利用により、保証料が不要となる。第2次補正予算案では、貸付限度額と利下げ限度額の引上げが予定されている。

取扱機関特別貸付:日本公庫
危機対応融資:指定金融機関(商工中金等)
融資対象者最近1カ月の売上高が前年または前々年同期に比し5%以上減少(*)している事業者で、中長期的にみて、業況の回復と発展が見込まれること
* 業歴3カ月以上1年1カ月未満の企業や、店舗増加や合併を行っている企業(ベンチャー・スタートアップ企業を含む)等は、最近1カ月の売上⾼と過去3カ月(最近1カ月を含む)の売上⾼の平均額等との比較でも可
貸付限度額日本公庫(中⼩)・危機対応3億円(拡充後6億円)、日本公庫(国⺠)6,000万円(拡充後8,000万円)
貸付期間設備資金20年以内、運転資金15年以内(据置期間5年以内
※繰上返済可
貸付利率当初3年間 基準⾦利▲0.9%
(日本公庫(中⼩)・危機対応1.11%→0.21%、日本公庫(国⺠)1.36%→0.46%)
担保・保証無担保、要保証(危機関連保証を適用した場合は保証料ゼロ)
(出所:経済産業省「令和2年度第2次補正予算案等(経済産業省関連)の概要」、日本政策金融公庫「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、経済産業省「新型コロナウイルス感染症に係る中小企業者対策を講じます(危機関連保証の発動、セーフティネット保証5号の追加指定等)」

活用したい補助金・助成金制度

次頁では、活用した補助金・助成金制度を紹介していきます。

  1. ⽇本政策⾦融公庫
  2. 商⼯組合中央⾦庫

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