データアナリスト 三井千絵
リスクの説明に力をいれた野村不動産
緊急事態宣言が全国で解除されてから2週間が経つが、新規感染者数は一進一退を繰り返している。世界に目を向けても感染の完全な収束への見通しは立たず、長期にわたる影響が予想され、事業の見通しを再検討することも必要となってくるかもしれない。
3月決算企業は、有価証券報告書の提出が近づき、新型コロナウイルスの影響によるリスクをどのように説明するかも重要な点になってくるだろう。今回はこうした「リスク」の説明に力をいれた野村不動産ホールディングス(以下「野村不動産」)のケースを紹介する。
各事業への影響マップ
不動産事業は、ビルを保有してテナントに貸し出したり、新たなビルを建設したりというのが主な事業だが、野村不動産の「2020年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」によると、主な報告セグメントは「住宅事業」、「都市開発事業」、「資産運用事業」、「仲介・CRE事業」、「運営管理事業」の5つにまとめられている。
事業規模としては最初の2つが大半を占めている。自らのKPIとして“事業利益”を設定していて、これは会計上の営業利益に持分法投資損益を足し、企業買収によって生じた無形資産の償却費を足し戻したものとなっている。
事業利益 | = | 営業利益 | + | 持分法 投資損益 | + | 企業買収に伴い発生する 無形固定資産の償却費 |
また、同社の「2020年3月期 決算説明資料」9頁では、これらの事業が新型コロナウイルスの感染拡大からどのような影響を受ける可能性があるかを洗い出している。最初に①収益逸失リスク、次に②収益機会先送りリスク、最後に③不動産価格等下落リスクだ。それらのリスクの特徴を解説したあと、それぞれ想定される事例をあげている。
例えば①では、テナントの休業等に伴う賃料の減免により賃料収入が減り、ホテルなどでは運営収入が減少する。②では工事の延期等により収益計上時期が遅れ、コストが膨らむだろう。そしてそのうえで不動産価格、サービスの価格の下落があれば中長期的には提供するサービスの価格変動や保有資産の評価変動につながるとまとめている。
影響タイプ | ① 収益逸失リスク | ② 収益機会先送りリスク | ③ 不動産価格等下落リスク |
影響の特徴 | 営業の自粛や休業、経済活動の不活性化などにより、その期間の収益が失われる | 営業活動の自粛や工事の中断、物品調達の遅れなどにより収益の計上時期が遅れる | 一時的な市況悪化により、不動産価格やサービスの価格等が下落する |
想定される事例 | ・商業施設を中心としたテナント賃料の減免 ・フィットネスクラブの営業休止による収入減少 ・ホテルの運営収入減少 ・営業機会の逸失による仲介手数料収入減 | ・分譲住宅販売時期の変更による計上時期の変更 ・工事期間延長による竣工、計上時期の変更 ・収益不動産の売却量変動及び一時的な物件保有 ・営業機会の逸失による仲介手数料収入減 | ・分譲住宅の販売価格変動 ・提供するサービス等の価格変動 ・保有資産の評価変動 |
続けて10頁では、事業部門を3つのグループ(住宅事業/都市開発事業/資産運用事業、仲介・CRE事業、運営管理事業)に分け、この①〜③の影響がどれぐらい予想されるかをマッピングしている。特に①の足元の影響を受けるのは売上高が大きい賃貸だが、その中でも休業等の影響を受ける商業施設が売上高割合の18%を占めていることを示している。また②の影響を受ける部分をハイライトしている。
こうした丁寧な開示は、セクターアナリストや、野村不動産に長く投資している投資家であればおそらく既知のことだとは思われるが、多くの企業の株式を保有していたり、同業他社の状況をみている投資家にとっては「よくまとめられてあると思った」と好評であった。

次頁では、業績予想と見積りの開示について、検討します。
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