コロナと戦う開示⑤:リスクの説明に力を入れた野村不動産

Opinion

業績予想ではなく、「会計上の見積り」を

 野村不動産は事業ごとに新型コロナウイルス感染拡大の影響を丁寧に分析しながらも、5月1日に発表した決算短信では新型コロナウイルスによる影響を明示していない。減損も生じているが新型コロナウイルスとは関係がないようだ。決算短信では合理的に見積ることが困難であるとの理由で、業績予想を未定としている。

3.2021年3月期の連結業績予想(2020年4月1日~2021年3月31日)
 2021年3月期の連結業績予想につきましては、現時点で新型コロナウイルス感染症の拡大が事業活動及び経営成績に与える影響を合理的に見積ることが困難であることから、未定としております。なお、今後合理的に見積ることが可能となった時点で速やかに開示いたします。

(出所:野村不動産ホールディングス「2020年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」)

 業績予想と、今年ASBJが注記として記載を求めている新型コロナウイルス感染拡大の影響の会計上の見積り(「コロナと戦う開示③:事業の将来を見据えたAOKIの追加情報開示」参照)は本来別のものだが、文脈からは業績に与える影響を予想できず、すなわち資産の評価替えの必要性もまだわからない、ということなのだろう。決算短信に記載された財務諸表においても、新型コロナウイルスの影響をどのように仮定して評価を行ったかは一切記載されていない。

 決算説明資料においても、「今後合理的に見積ることが可能となった時点で速やかに開示する」と記載されてはいるが(9頁)、不動産という経済の影響を大きく受けることが予想される業種であることを考えると、こうした書き振りは、現時点での財務諸表の精度の限界を表しているともいえる。

 ある投資家(野村不動産に直接投資しているわけではない)にこれらの開示の感想を求めると、「彼らが事業のリスクをどう整理しているかはわかるのでそれはよいが、それぞれのマテリアリティはわからない」と述べた。

 業績予想はできなくてもおそらく内部では事業に必要な何らかの仮定は立てていると思われるし、それが財務諸表にも記載されていれば、これらのマテリアリティも想定しやすかっただろう。野村不動産も日本基準適用企業であるためにそうした開示に慣れていなかったのか、あるいはコンセプトは異なるのに業績予想と算定方法が一部似ていることにより、会計上の見積りも予想が外れることを敬遠するかのように記載を躊躇してしまうのだろうか。

継続した開示の重要性

 野村不動産の決算説明資料で記述されているように、③不動産価格等下落リスクはこれから顕在化してくるだろうし、その際に主要事業(住宅・都市開発)が影響を受けると考えられる(10頁)。今年金融庁やASBJが、新型コロナウイルスの影響に関わる見積りの仮定を説明することを求めたのは、投資家にとっても過去にない状況だからだ。そして野村不動産の決算説明資料が述べているように、今後合理的な見積りができ次第速やかに開示することが望ましいだろう。

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