特別定額給付金のオンライン申請、混乱の元凶はマイナンバー?

Opinion

税理士 藤曲武美

特別定額給付金のオンライン申請でマイナンバー機能せず!

 1人当たり一律10万円を支給する特別定額給付金の申請については、郵送による申請とマイナンバーカードを用いたオンライン申請との2通りの申請方法が用意された。オンライン申請による申請数は相当数にのぼったようであるが、様々の不都合が生じて、各自治体は、オンライン申請によらず、郵送で申請するように呼びかける事態となった。

 かねてから、マイナンバーカードの導入における利点として、各種のオンライン申請ができることが挙げられていた。しかし、国民にとってきわめて切実な給付金支給に係る申請手続において、まったくマイナンバー制度が機能しなかったということは、衝撃的な事態であるといわざるを得ない。

 政府はこれまで、マイナンバー制度に係るシステムに数千億円をかけて、公平・適正な税務行政等を進めるとともに国民にとっても各種の利便性を高めることを宣伝してきた。しかし、現行システムは、期待されているものには程遠いシステムであることが明らかになってしまったわけである。

マイナンバーと預金口座が紐づけば解決する?

 政府は、この問題について、迅速対応ができなかったのは、預金口座がマイナンバーと紐づいていなかったことが原因であるとしている。そこで、新聞報道などによれば、1人1預金口座をマイナンバーと紐づけるために2021年度の通常国会に関連法案を提出する予定であるとされている1。そうすれば、その紐づけた口座に給付金などを国が迅速に振り込むことができるとしているのだ。

 また、自民,公明,日本維新の会は、6月8日に、マイナンバーと預貯金口座の紐づけを可能とする議員立法を提出している。預貯金口座との紐づけができれば、確かに今回のように一律に定額を振り込むような場合には、その登録口座に振り込むことが可能になる。しかし、幼児なども含めたすべての者に預金口座の紐づけができるかは疑問である。

 ところで、果たして預貯金口座の紐づけで、今回の問題は解決するといえるかは疑問である。各自治体の処理業務で大きなボリュームを占め、最も円滑な業務進行の障害となったのは、提出された申請書をチェックするために申請者の住民票と突合する作業であったといわれている。各自治体の職員が、紙ベースの住民基本台帳と申請書とを、手作業で突合し、確認をせざるを得なかったのである、これが、業務のスムーズな進行を妨げたといわれているのだ。

申請者のマイナンバーと世帯人数が紐づいていなかった!

 公的個人認証サービスを前提としたオンライン申請では、申請できてさえいれば申請者の本人確認はクリアされ、あとは、その申請者の世帯の人数が確認できれば、給付金額は自動的に計算されて、振り込むだけになるはずである。ところが、実際は申請者本人の世帯人数が申請者本人と紐づいていないということが明らかになり、そのために紙ベースの住民基本台帳との突合やチェックが必要となってしまったわけである。

 政府は、マイナンバーカード制度により、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとっての利便性の高い公平・公正な制度実現の基礎をなすとしているが、個人の世帯人数などは、所得等以前の最も基礎的なデータである。その紐づけが行われていないということは、個人と住民基本台帳との紐づけがどのようになっているのか、または今後において紐づけていくべきなのかといったことについて、基本的疑問を提起しているといえる。したがって、単に預金口座を紐づければ解決する問題ではないといえる。

マイナンバー制度に課した制約が足枷に…

 日本のマイナンバー制度は、①社会保険分野、②税分野、③災害対策分野の3分野に利用が限定されている。新型コロナウイルス感染症対策は、③災害対策分野に該当し、「被災者生活再建支援金の支給に関する事務」に利用することは想定されていた。しかし、マイナンバー制度で直接に特定できる情報は4情報(住所・氏名・生年月日・性別)に限定されている。

 したがって、その他の情報、例えば今回の場合であると、「世帯人数」などの情報は、情報連携により収集しなければならないことになる。今回のように、申請者の住民票が存在する区市町村に申請する場合でも、申請者のマイナンバーとその者の世帯人数が、システム上において紐づいているわけではないことが明らかになったわけである。

 そこで、前述のとおり、各市町村は紙ベースの住民基本台帳と突合する作業を強いられることになってしまい、さらには、申請書における様々な記入ミスも発見され、収拾がつかなくなってしまったというのが実態であったようである。個人番号がわかれば、各市町村は、自らが保有している住民票システムで世帯人数をチェックすることはシステム上、容易にできそうにも思われる。そうであれば、人による紙ベースでの突合をする必要はないようにも思われるが、そうではなかったのだ。そもそも今回の給付金の申請をオンラインシステムで行うと決定したときに、その後の突合体制などに対しても、事前に予測できてもよいはずであるが、現行システムの事情を把握できていない者に、申請方法の決定権が任されていたという問題もあると考えられる。

一元管理、分散管理…目指すべきシステム構築のあり方は?

 また、わが国のマイナンバー制度は、情報管理やセキュリティの考慮から、一元管理方式ではなく分散管理方式を採用している。各行政団体が保有している情報は、一定の当局に一元管理されるのではなく、情報提供ネットワークシステムによって紹介・提供が行われる。番号制度の先進国といわれている北欧等では、共通データベースを管理する当局が一元管理するシステムになっているのに対して、日本のマイナンバー制度は分散型ともいえるシステムになっている。それはそれで、情報管理やセキュリティの面では意味があるところである。

 新型コロナウイルス対策では、特別定額給付金だけでなく、雇用調整助成金をめぐる各種システムの不備も明らかになった。そのような中で特別定額給付金のオンラインシステムの問題は、単に預金口座との紐づけの問題とするのではなく、基本的なシステム構築の枠組みの問題としても捉えていかなければならない。税金との関係では、わが国の記入済み申告書方式を採用せずに申告納税制度を重視する趣旨を活かしながら、どのようなシステムを構築していくべきか議論することが重要である。

  1. 日本経済新聞2020年6月9日ほか。

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