雇用調整助成金の日額上限が引上げに! 追加支給も

人事・労務

今回の第2次補正予算成立による要件緩和(続き)

 2.1 助成額の上限額の引上げ
 1人あたりの助成額の日額上限額は8,330円となっていたが、本年4月1日から9月30日までの期間の休業および教育訓練について、企業規模を問わず上限額を15,000円に引き上げることとした。企業全体で正社員割合が高い場合は、雇調金の助成率を引き上げたところで、ほとんどが8,330円の日額上限に引っかかってしまい、助成率の引上げが意味をなさないという指摘があったが、上限額引上げにより事業主の負担が大きく減少されることになるであろう。この引上げはすべての企業に対して適用される。

2.2 解雇等を行わない中小企業の助成率の拡充
 解雇等をせずに雇用を維持している中小企業の休業および教育訓練に対する助成率は、原則9/10となっていたが、この助成率を一律10/10に引き上げることとした。日額上限の引上げと相まって、中小事業主の負担が減少するとともに助成額の試算がわかりやすくなるであろう。これは大企業には適用されない。

2.3 追加支給
 第2次補正予算が成立し、その特例措置により、2.1で記載のとおり日額上限額を本年4月1日にさかのぼって15,000円に引き上げる措置が決定されたが、これまですでに日額上限を従来の8,330円のまま申請を行った事業主について、先んじて申請をしたがために損をしてしまう事態が発生することになる。これについては差額の支払いを受けることが可能であり、ケースごとに以下のような措置が取られることとなった。

① 支給申請済みで、まだ支給決定がされていない場合
 追加支給の手続をすることなく、労働局側が差額を計算して、差額分も含めて支給されることとされた。
② すでに支給決定された場合
 追加支給の手続は不要で、労働局側が差額を計算して、本年7月以降に追加支給がされる。
③ 支給申請済みで、今回の引上げにより過去の休業手当を見直し、従業員に追加で休業手当増額分を支給した場合
 本年9月30日までに再申請書の様式等により、追加支給の手続が必要となる。

2.4 緊急対応期間の延長
 本年4月1日から6月30日までを雇調金申請にかかわる緊急対応期間として、各種の特例措置(適用時期の差異はあったものの概ね前述の1.1から1.13までがそのポイント)を講じてきた。今回の改正により緊急対応期間の終期を3カ月延長し、本年9月30日までとすることで、これまでの特例措置も延長して適用することとした(1.13の措置は不変)。

2.5 出向の特例措置等
 雇調金の支給対象となる出向については、出向期間が「3カ月以上1年以内」とされていたが、緊急対応期間内においては、これを「1カ月以上1年以内」に緩和した。

雇調金申請上の留意点

 雇調金の申請上、注意を要する点として挙げられるのは、1.12に記載した「助成額算定における選択肢」が拡充されているところだ。簡単に言えば、選択により支給される助成金額の多寡が変わることである。6月は労働保険の年度更新の申告時期であるが、本年度については新型コロナウイルスのための対応として、通常の7月10日より遅く、8月31日までに申告期限が延長されている。期間延長に伴い、未だこの申告をしていない企業が多いと思われる。

 雇調金の算定基礎となる日額の数値は、原則として前年度の労働保険申告で使用する確定賃金総額が根拠となる。現在のタイミングでは、この労働保険の今年度の申告がされていない場合、前年度の労働保険申告で使用した前々年度の確定賃金総額を利用することになるが、逆に言えば、雇調金の日額の元となるデータについて、前年度もしくは前々年度のいずれかを選択することが可能となるわけだ。つまり、前年度の確定賃金総額を元に算出した日額のほうが、前々年度の確定賃金総額を元に算出した日額より多くなる場合は、速やかに労働保険の申告を行い、前年度の確定賃金総額データを算定基礎として利用することが可能となる。

 さらに、新型コロナ特例として1.12で前述した「源泉所得税」の納付書から算出した日額と比較することも可能となった。要は上記のとおり通常3つの選択肢から一番日額が高くなるものを選択することができるのである。さらに従業員がおおむね20人以下の小規模事業主においては4つめの選択肢として、現実に支払った休業手当から直接算出する方法も選択できるということになっている。いずれの助成金額が一番多くなるのかをシミュレーションした上で算出方法を選択すべきであろう

 おそらく雇調金支給の要件に関する大きな改正は、これが最終となるのではないかと思われるが、日額の引上げは先に安倍内閣総理大臣からも報道発表がされていたので、実務上は、第2次補正予算が成立したのち、具体的に「いつから」「どのように」手続が変わるのかが焦点であった。あまり急いで申請を行ったがために、差額分の再申請を行う手間が増え、かつ、今回の改正の決定を待って申請したほうがスムーズに支給決定がされるのではないかという憶測もあり、筆者への問合せも多かったところである。

 今回2.3の「追加支給」で述べたとおり、その方法が明確となったことで、日額上限が引き上がった最新書式をダウンロードして、速やかに申請を行うことができることとなった(※6月15日時点での厚労省の「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」特設サイト掲載の書式は、すでに今回の日額上限引上げに対応済みである)。今般の第2次補正予算成立に伴う雇調金の要件緩和前に用意していた申請書式は差替えが必要となる。

 支給申請をすでに行った企業の実績を見ると、申請してから支給決定・振込みがされるまでの期間は、およそ1カ月から最短で2週間程度のようだ。

 「雇用調整助成金等オンライン受付システム」については、2度にわたる不具合が発生し、いまだオンライン受付の再開のめどが立っていない(6月18日時点)。労働局やハローワークでの窓口受付のほか、郵送でも申請を受け付けており、急ぎでの入金を望むのであればこれらの方法での申請をおすすめしたい。おおむね20人以下の小規模事業主用と小規模事業主以外の事業主用とで申請書式が別になっているので、注意したい。

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 主な雇調金の要件緩和と申請上の留意点のポイントを見てきたが、申請書式については今後も変わる可能性があるので、常に最新の書式を活用することが肝要である。主要なポイント以外の詳細要件については、厚労省の特設サイトでチェックしながら万全に申請されるようお願いしたい。

執筆者プロフィール

アイ社会保険労務士法人 代表社員。IPO・内部統制実務士、特定社会保険労務士。1996年土屋社会保険労務士事務所設立。2013年アイ社会保険労務士法人を設立。IPO支援、労務監査、就業規則整備に強みを持つ。上場企業含む約200社のクライアントの支援と年間数十本の講演を行う。近著に、『IPOの労務監査と企業実務』(共著、中央経済社、2020年)。

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