ASBJ・金融庁、新型コロナに関する四半期開示の考え方示す

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 去る6月26日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(4月10日公表、5月11日追補)を更新した。

ASBJ議事概要が要請する追加情報

 会計上の見積りとは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること1と定義されている。

 ASBJはすでに4月10日に公表した議事概要「新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)」の中で、「新型コロナウイルス感染症の・・・今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難」としつつも、「新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある」など、会計上の見積りを行う上での4つの留意点を挙げていた。

 その4点目には以下のようにある。

(4) 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報2としての開示が求められるものと考えられる。

ASBJ、議事概要「新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)」(2020年4月10日)

 しかし5月11日の追補では、それまでに公表された 2020 年 3 月期の開示情報を踏まえると、新型コロナウイルス感染症の影響が大きい業種においても、今後の法定開示書類において追加情報の開示が十分に行われないのではないかとの意見が聞かれている、と懸念を示している。

 そこで、追補では「当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる」と強調している。

ASBJ議事概要の更新内容:四半期決算の考え方

 この「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」について、四半期決算における考え方を明らかにしてほしいとの意見があったことから、ASBJは、審議の上、6月26日に上記考え方を更新し、以下の3点を確認した(赤字、太字は編集部)。

 四半期決算において、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったとき、新たに仮定を開示するとき、さらに、仮定に重要な変更を行っていないときも(利用者にとって有用な情報と判断される場合は)、それぞれ、四半期財務諸表に係る追加情報として記載することを求めている。

(1) 上記の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられる。

(2) 前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられる。

(3) 上記の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい。

金融庁も新型コロナの影響に関する四半期の考え方を提示

 ASBJの議事概要の更新を受けて、7月1日、金融庁は「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表した。

 なお、有価証券報告書における新型コロナウイルスの影響に関する企業情報の開示に関しては、5月21日に「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表している。

四半期報告書の提出期限

 4月17日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が改正され、4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告書、四半期報告書等について、企業側が個別の申請を行わなくとも、その提出期限が一律に9月末まで延長されている。

財務情報(追加情報)の開示

 更新された議事概要(詳細は上記参照)では、前年度の財務諸表で、新型コロナ関連(会計上の見積りの仮定)の追加情報の開示を行っている場合で、四半期において当該仮定に重要な変更を行ったときは、「他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要がある」とされている。

 また、前年度の財務諸表で仮定を開示していないが、四半期に重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、「他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要がある」とされている。

 さらに、前年度の財務諸表において当該仮定に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期で当該仮定に重要な変更を行っていないときも、「重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい」とされている。

 当該議事概要を踏まえ、「四半期報告書において、適時適切に投資家へ情報提供することが強く期待される」と新型コロナウイルス感染症の影響に関する会計上の見積りの仮定に関する追加情報開示を改めて要請している。

 なお、当該仮定について、その後の経営環境の変化を踏まえ見直しを行った結果、会計上の見積りに変更が生じた場合には、四半期財務諸表において、当該見積りの変更の影響を反映する必要がある。

非財務情報(記述情報)の開示

 四半期報告書における非財務情報(記述情報)(「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」等)では、前事業年度の有価証券報告書における会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定の記載について「重要な変更があった場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること」とされている。

 ただし、この内容を財務情報である追加情報において開示した場合には、非財務情報の開示ではその旨を記載することによって省略できる。

 また、会計上の見積り以外においても、「事業等のリスク」3における新型コロナウイルス感染症の影響や対応策の変更、「MD&A」における新型コロナウイルス感染症の影響による経営方針・経営戦略の見直し等、前事業年度の有価証券報告書に記載した内容から重要な変更があった場合には、四半期報告書において、当該変更の具体的な内容を記載することが求められる。

 記載にあたっては、5月29日に金融庁が公表した「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」が参考になる。

 なお、四半期報告書の財務情報(追加情報)および非財務情報における当該開示についても、有価証券報告書レビューの一環として、必要に応じて確認するとのことである。

  1. 企業会計基準第 24 号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第 4 項(3)
  2. 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第 8 条の 5「この規則において特に定める注記のほか、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない。」
  3. 「改正内閣府令に係るパブリックコメントに対する金融庁の考え方」(2019 年1月31日公表)No.16 では、「事業等のリスクの記載は、将来の不確実な全ての事象に関する正確な予想の提供を求めるものではなく、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、具体的な説明を求めるもの」とされている(太字は編集部)。

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