未知から既知への旅を楽しむ(連載「ニューノーマル時代の読書術」)

読書術&書評

公認会計士
武田 雄治

この記事は、企業会計2020年12月号(連載「ニューノーマル時代の読書術」)より執筆者の許可を得て転載したものです。

はじめに

 編集者・著述家の松岡正剛は,読書の醍醐味は「無知から未知へ」だと述べている(松岡剛『多読術』(筑摩書房,2009年))。無知があるから未知へ向かうことができる。読書は,常に未知のパンドラの箱を開けるという「楽しみ」である。この「楽しみ」は,書店で本を選んでいる時から始まっている。つまり,読書とは,本を読むという行為の前から始まっている。

 2020年に始まったコロナ禍により社会は変化の激しい「ニューノーマル」の時代に本格的に突入したとみることができる。このような状況に適応していくためには,これまで以上に,読書を通した「無知から未知へ」「未知から既知へ」という旅を楽しむべきではないだろうか。

 本稿では,筆者なりの本の読み方,本の選び方を紹介し,実務家の皆様に役に立つと思われる文献も紹介したい。

本の読み方

 松岡正剛は,読書には「読前術」「読中術」「読後術」があると述べている(前掲書)。つまり「読中」だけが読書ではない。「読前」「読後」にも読書はある。

読 前

 筆者は,「読前」に時間を割くことが,「読中」の質を高めると思っている。本を手に取っ
て,本文の1行目から読み始めることはいただけない。

 書籍を手に取ると,まず表紙のカバー,帯,袖の部分をじっくりと見る(読む)。ここに著者(もしくは編集者)が最も伝えたいことが書かれていることが多い。読者はそれを読み取るべきである。また,目次は,隅々までじっくりと見る(読む)必要がある。ここに数分間をかけてよいだろう。さらに,著者プロフィール,「はじめに」「おわりに」も先に読む。つまり,本文を読み始める前に,本文以外を見る(読む)のである。この「読前」の儀式により,内容,結論,読むべきポイントをつかむことができ,読書の時間を圧縮させることができる場合もある。

 最近では,書籍のサマリー(要約)を提供するサービスもある。筆者は「flier」「TOPPOINT」を活用している。また,書評ブログや書評サイトも役立つ。「HONZ」というサイトは読むに値する本だけを厳選して書評を配信してくれるので有益である。

読 中

 本の読み方は人それぞれで構わないと思うが,筆者は赤ペンを持ちながら本を読む。未知であった箇所,重要だと思う箇所を,赤線を引いたり,マーキングをしたりしながら本を読んでいる。また,本をノートとみなし,余白に新たな気付きなどを書き込むこともある。

 このような読書術は,読書のスピードを落とすため,時間の無駄だと批判する人もいる。しかし,本を読んだ後に,その内容を忘れている(もしくは思い出せない)ことのほうが時間の無駄ではないだろうか。「読後」に重要だと思う箇所をすぐに取り出せるように読み進めることが最も効率的な読み方であると考える。

読 後

 人が何かを学んでも,2日後には約7割のことを忘れるという(エビングハウスの忘却曲線)。一度読んだ本を何度も読み返すことのほうが少なく,大半の本は一度しか読まず,その内容はいずれ忘却する。そのため,筆者は学んだことは2日以内にノートにまとめることにしている(筆者はこれを「48時間ルール」と呼んでいる)。

 この作業は時間がかかる。読前:読中:読後=1:5:4の時もあれば,読前:読中:読後=1:3:6の時もある。しかし,読書の中の大切な儀式と捉えている。もう読み返すことがないという本であれば,赤線を引いた箇所のページをちぎり,ノートに貼り付けることもある。知は本の中だけではなく,移動させてよいと考える。

本の選び方

 ビジネス書,実務書,専門書といった本を読むことも,「無知から未知へ」「未知から既知へ」という旅であり,そこから新たな何かを学ぶ楽しみがある。
 学び方には,「浅く広く」学ぶ方法と,「狭く深く」学ぶ方法に2分することができる。全くの未知の分野であれば,まずは「浅く広く」学び,ある程度の基礎知識が得られたら「狭く深く」学んでく。さらに,学ぶ目的によって,「総論」を学ぶ方法と,「各論」を学ぶ方法に2分することもできる。

 この「浅く広く」「狭く深く」と,「総論」「各論」を,マトリックスにしたものが図表である。すでに実務に精通されている方にとっては,実務上役に立つ本とは,①入門書や③解説書ではなく,より深い内容ではないだろうか。他方で,②実務書・実践書や④専門書・学術書は専門的すぎて実務の役に立たないことも多い。実務家の皆様にとって,実務上,真に役立つ本とは,①入門書と②実務書・実践書を「またぐ」本であり,③解説書と④専門書・学術書を「またぐ」本であり,総論と各論を「またぐ」本ではないだろうか。このような「またぎ」の本が,その分野の「全体と部分」「森と枝」を俯瞰することができる有益な本といえる。

 以下,「総論」を述べているが「各論」もまたいでいる本,「各論」を述べているが「総論」を論じている本を中心に,実務家の皆様に役に立つと思われる文献を紹介したい。

〔図表〕本の選び方のマトリクス

コメント

タイトルとURLをコピーしました