未知から既知への旅を楽しむ(連載「ニューノーマル時代の読書術」)

読書術&書評

実務家の役に立つ文献

経理部を俯瞰する本

 いきなり拙著で恐縮だが,まずは経理部の存社全体の視点から述べた武田雄治『「経理」の本分――部署の存在意義,業務の原則,部員の心得』(中央経済社,2019年)から,経理部を俯瞰してほしい。より実務的・実践的に経理部の仕事を俯瞰したいなら,稲盛和夫『稲盛和夫の実学――経営と会計』(日本経済新聞出版,2000年)がベスト書であろう。個人的には,経理部の実務について書かれた本の中で,最も有益な本だと思っている。初版から20年以上が経過しているが,いまでも内容は色褪せないどころか,本質を突いている。筆者が最も繰り返して読んでいる会計関連書でもある。さらに掘り下げたものとして吉田栄介・花王株式会社会計財務部門(編著)『花王の経理パーソンになる』(中央経済社,2020年)が有益である。タイトルのとおり,花王の経理実務を紹介してくれている。大企業の経理実務を俯瞰したい方は必読である。

 決算・開示実務にフォーカスをあて,その実務を俯瞰するには,武田雄治『「経理の仕組み」で実現する決算早期化の実務マニュアル《第2版》』(中央経済社,2016年)が有益であろう。決算早期化が目的でない方でも,本書から決算・開示実務の全体像を掴むことができる。まさに「全体と部分」「森と枝」を俯瞰し,両者をまたぐ本である。

 ニューノーマル時代における経理実務を俯瞰するには,原幹『1冊で分かる! 経理のテレワーク』(中央経済社,2020年)が詳しい。経理業務へのテレワーク導入の方法を,業務フロー面,内部統制面,システム面などから俯瞰できる。中尾篤史『経理部門の働き方改革のススメ』(税務研究会出版局,2018年)も参考になる。

強い経理部へ進化させるための本

 経理部は,「経営の中枢部門」であり,「経営の指令基地」である。経理部は,仕訳を入力したり,決算を締めたりするだけの部門ではない。会社の数字を最もよく理解している経理部門が,経営の過去・現在・未来の「ストーリー」を作り,ストーリーの語り部となって,経営者や投資家などのあらゆる利害関係者に伝えていかなければならない。これが「真の経理部」であり,経理部門はこのような「強い経理部」へ進化させなければならない。
 「強い経理部」に進化させるためには,決算を締めた後が大切である。①徹底した財務分析・経営分析を行い,②ストーリーを作り,③伝えていかなければならない。財務分析・経営分析の手法を学ぶには,吉田有輝『決算書の読み方[最強の教科書]決算情報からファクトを掴む技術』(ソシム,2020年)が有益である。『決算書の読み方』というタイトルであるが,B/SやP/L の読み方を解説している入門書ではない。企業が公表するあらゆる開示物(有報,短信,決算説明資料,非財務情報等)を題材に,それを徹底して分析し,事実(ファクト)をつかみ,企業の「ストーリーを描く」という,本当の意味での『決算書の読み方』を教えてくれる本である。企業の公表物からでもここまでの財務分析・経営分析をすることができる。インサイダーの実務家の方であれば,本書を超える分析を実施することが望まれる。冨山和彦,経営共創基盤(共著)『IGPI 流 経営分析のリアル・ノウハウ』(PHP 研究所,2012年)も有益である。数字の背後にある企業の実態を想像し,出てきた仮説を現場に足を運んで検証し,企業の実態に迫り,分析の質を高めることの大切さを知ることができる。経営分析は経理部のデスクの上で完結するものではないということを教えてくれる。

経営と経理をまたぐ本

 財務分析・経営分析は,CFO や経営企画部門の仕事だと思っている方がいるかもしれないが,筆者は経理部門がやるべき決算・開示業務の一部だと考えている。むしろ,CEO・CFOを突き動かすような部門に進化させなければならない。そのためにも,世のCFO の仕事を理解しておくことも大切である。大塚寿昭(編著)『CFO の履歴書』(中央経済社,2019年)は,著名な企業のCFO10名が共同執筆した貴重な一冊であり,CFO の仕事を理解するのに役立つ。より専門的な実務を学びたい場合は,昆政彦・大矢俊樹・石橋善一郎『CFO 最先端を行く経営管理』(中央経済社,2020年)柳良平『CFO ポリシー――財務・非財務戦略による価値創造』(中央経済社,2019年)などが有益である。北川哲雄・佐藤淑子・松田千恵子・加藤晃『サステナブル経営と資本市場』(日本経済新聞出版,2019年)の第Ⅱ部「企業価値向上の司令塔としてのCFO の役割」も大変有益である。この第Ⅱ部の執筆を担当された松田千恵子氏(東京都立大学教授)の書籍は,「経営と経理をまたぐ本」が多い。松田千恵子『グループ経営入門《第4版》――グローバルな成長のための本社の仕事』(税務経理協会,2019年)は,グループの企業価値向上に向けての本社の仕事について詳述されている。松田千恵子(編著)『経営改革の教室――会社を変えるために何ができるだろうか。』(中央経済社,2020年)は本誌『企業会計』での経営者との対談を一冊にまとめたもの。錚々たる大企業のCEO・CFO などとの対談は熟読に値する。

各論から総論を俯瞰する

 最後に「各論」を述べているが,全体像を俯瞰できる本も紹介しておく。

 ファイナンスに関する本の中で,朝倉祐介『ファイナンス思考――日本企業を蝕む病と,再生の戦略論』(ダイヤモンド社,2018年)は特に面白い本である。ファイナンス関連本は財務の仕事にフォーカスされているものが大半であるが,企業の全業務に紐付くものという視点で書かれている。ファイナンス後に利害関係者にどのようにストーリーを伝達するのかという点まで述べられているため,「強い経理部」を作るための参考にもなるだろう。

 管理会社に関する本の中では,梅澤真由美『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社,2018年)が有益である。複数の企業で管理会計の構築に携わった著者だからこそ,管理会計の「全体」と「部分」を実務的側面から詳述することができる。内部統制に関する本の中では,浅野雅文『今から始める・見直す 統制の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社,2019年)が有益である。著者は,J-SOX 導入前から,US-SOX の監査・コンサルをやっていた経験がある。豊富な経験から,内部統制は「やはり必要」と述べている。経営者の視点,実務担当者の視点,監査法人の視点から,意味
のある内部統制をどのように構築するべきなのかの全体像を俯瞰できる。

 最後に,実務家の方から「どうやって勉強したらいいのか」という質問を受けることが多い。OJT で学ぶことが大切だが,仕事以外の時間も勉強し,自己の価値を高めたいと考えている方は多い。梅澤真由美『「経理」の勉強法! ――配属3年目から始める知識・スキルの身につけ方』(中央経済社,2020年)は,そういう方にオススメの一冊。


 冒頭にも述べたとおり,読書は未知のパンドラの箱を開けるという「楽しみ」である。本は「読む」ことに意味があるのではなく,「楽しむ」ことに意味がある。それは,未知を知るという楽しみであり,知識を得るという楽しみであり,自己の価値が向上していることを実感する楽しみである。その前提として,あらゆることに「関心を持つ」ことが必要である。細部ではなく全体に関心を持つこと,経理ではなく経営に関心を持つこと,そういった関心が,自己の価値を高め,会社を変える。紹介した本以外にも良書はたくさんあるので,関心を持ってそういう本を手に取ってほしい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました