コロナ禍において経理業務をテレワークに変えていくべき理由

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公認会計士・税理士・公認情報システム監査人(CISA)
原 幹

なぜ『経理のテレワーク』が必要なのか

 新型コロナウイルスが世界規模で感染拡大を始めてからおよそ半年、日本では緊急事態宣言の発出と解除、東京アラートなどを経て現在は感染拡大を防止しつつも経済活動を維持するための試みが続いている。

 ウイルス感染症対策の一環としての社会的距離(ソーシャルディスタンス)の習慣も我々の生活に根付き、街中や交通機関、職場などでマスクやフェイスガードを装着する風景もおなじみのものになった。ワクチン開発など、感染症対策に一定の方向性が見えるまでこの状況は続くと思われる。

 一方で、感染症対策の一環として「テレワーク型勤務」に舵を切った多くの企業が、感染者数が落ち着きを見せると再び「出社型勤務」に勤務形態を戻している。感染者数や重症患者数が増減するたびにオペレーションを変更することは現場の混乱を招き、なにより業務の生産性に大きく影響する。

 感染症対策が一過性のものでなく今後も断続的に続いていく以上、「テレワーク型勤務」と「出社型勤務」のいずれをとるのか、もしくは両方のバランスをとる勤務形態を採用するのかは企業の判断に委ねられている。筆者の見解では、これからのビジネス環境のスタンダードはウイルス対策を抜きにしても「ソーシャルディスタンス」を前提に再構築され、そのような動きに対応できる企業が生き残り、そうでない企業が淘汰されていくという大きな流れがあり、それはすでに進行中である。

 GAFAM(Google/Amazon/Facebook/Apple/Microsoft)などの巨大IT企業が率先してテレワーク型勤務にシフトし、成果もきっちり出している現状こそが、テレワーク型勤務が今後の主流になっていくであろうことを示している。ソーシャルディスタンスは「日常的な習慣」から「ビジネス環境を再構築する新たな習慣」として定着していくだろう。

 ソーシャルディスタンスを前提とした働き方とは、距離が離れている状態でコミュニケーションをとることが必須となり、ローコンテクストでかつ非同期処理で仕事が進んでいくスタイルである。仕事の指示はテキストや動画などのデジタルコミュニケーションで行われ、進捗状況は可視化され成果の評価までデジタル化されていく。ローコンテクストであることから、そこには可視化された情報が求められ、「空気」や「阿吽の呼吸」は存在しない。

 このような仕事の進め方が定着していくことで、場所や時間の制約を超えた働き方が可能となり、それによって国内のみならず、海外とも連携して1つの仕事を仕上げていくスタイルが広がっていく。こうした仕事のやり方が、今後の主流になっていくだろう。その先にあるのは、リアル世界で距離をとりつつもサイバー世界でさまざまなヒトやデータが連携する世界である。

 そして、このような働き方は、従来の「出社型勤務」を前提としていた多くの日本企業にとっては大きなチャレンジになる。ハイコンテクストな企業文化、すなわち「社内にいることを前提としたあいまいな指示」「アナログな進捗管理」「属人的な年功序列評価」は過去のものになるだろう。物理的に会社にいることを前提とした時間的・コスト的な制約(非効率)は、企業の生産性を下げ、ひいては競争力低下をもたらす。つまり、多くの企業にとっては「テレワーク型勤務」にシフトしていくことは、単なるビジネス習慣の変化にとどまらず、今後のビジネス環境での生き残りを賭けた大きなチャレンジになるということだ。

 バックオフィス業務の代表ともいえる「経理業務」にとっても、そのような変化は例外ではない。多くのデータがデジタルで扱われ、社内外のデータ処理の終着点として機能する業務である特性から、経理業務も今後はテレワーク型勤務を前提としたオペレーションに組み立てることが求められていくだろう。

『経理のテレワーク』実現のために最も大切なこと

 経理業務をテレワークに対応させるためにはトップマネジメントのコミットをはじめとしたさまざまな準備が必要になるが、根底にある以下の考え方が肝要である。

データドリブンの業務処理

 テレワーク勤務は多くのデータをデジタルで処理することになり、原則として紙で処理することをやめていくことになる。これを実現するためにクラウドの活用は必須になる。また、従業員が作業に使用するPC内に直接データを保存する(ローカルデータ)習慣はデータ連携を制限するため、クラウド上に保存して利用されるのが前提になるだろう。ヒトや端末にデータがついてくるのでなく、クラウドで共有されたデータにヒトや端末が関連づけられていく。

 そのような業務においては経理処理されるデータはもちろんのこと、あらゆるデータがクラウドを介して連携され、多くの業務処理が自動化されていくことになる。

非同期での仕事の進め方に慣れる

 テレワーク型勤務においては「ヒトが会社に常にいる」環境ではないため、仕事の進め方も大きく変化する。チャットやオンライン会議を介したコミュニケーションのもとで、多くの仕事が非同期で進行していく状況では、仕事の指示は内容と期限が明確でなければならない。マネジメントする側にはそのような指示を切り出していくスキルが求められるだろう。

 また、管理の方法についても、目の前にヒトがいないことを前提にしたマイクロマネジメントを行うのではなく、目の前にヒトがいないことを前提に行った指示に対する『成果』のマネジメントを行うというスタイルに変わっていく。マネジメントする側にとってはもちろん、従業員の側にとっても、与えられた納期に向けて品質を満たした仕事をしていくことが求められるだろう。

 テレワーク時代は、これまでよりも場所や時間の裁量がある反面、デジタルな環境で、より厳しく仕事の品質が問われる時代になる。そのような時代に向けて、少しでも早くテレワークでの働き方のノウハウを蓄積し、競争力強化につなげ、激化するビジネス環境での生き残りに備えていきたい。

原幹先生最新刊のご案内

経理のテレワークの具体的な進め方を徹底的に解説した原幹先生の最新刊『1冊でわかる! 経理のテレワーク』が発売になります。ぜひ弊社サイトや書店等でお買い求めください。

定価:2,530円(税込)A5判/184頁
本書の構成
第1章 社会環境の激変とテレワークへの対応
第2章 テレワークの実際と運用ポイント
第3章 経理業務へのテレワークの導入プロセス
第4章 テレワーク導入で想定されるリスクと対応策
第5章 経理業務プロセスにおけるテレワーク対応の実際
第6章 テレワーク導入に伴う内部統制評価のポイント
終 章 これからの経理業務の姿とは
Appendix

本書の特徴
⦿テレワーク導入から運用までを丁寧に解説

導入検討時の考え方、対象業務の選定、労働時間・勤務体系といった社内ルールの調整、ITインフラの整備など、「経理」のテレワーク導入に必要な知識はこの1冊で万全です。

⦿業務プロセス別に問題点と対処法を解説
請求、支払、給与計算、取引登録、月次処理、決算処理(単体・連結)、監査対応、税務申告、開示書類の作成といった経理の業務プロセスごとにテレワークの留意点を解説しています。

⦿リスク管理・内部統制評価の要注意ポイントを解説
テレワーク導入に伴って生じる労務上の問題や情報漏洩など、さまざまなリスクにどう対処すべきか、また内部統制評価をどのように行うべきかについても解説しています。

⦿使えるツールも多数紹介

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