雇用調整助成金の日額上限が引上げに! 追加支給も

人事・労務

アイ社会保険労務士法人
代表社員・特定社会保険労務士
 土屋信彦

 第2次補正予算が2020年6月12日に参院本会議で可決、成立した。およそ32兆円にものぼる一般会計からの補正予算は過去最大である。その中心の1つに挙げられるのは、雇用調整助成金(以下「雇調金」という)の日額上限の引上げを含む要件緩和である。手続が非常に複雑でわかりにくいと言われている雇調金受給の要件が、今回どのように改正されたのか、さらに申請上の留意点についてポイント解説する。

これまでの主な要件緩和

 雇調金は、事業の業績悪化にともない解雇等の人員整理をすることなく休業等を行った場合、その間の事業主が支払う休業手当等に対する助成を国が行うものである。
 新型コロナウイルス感染症等の影響による雇調金の要件緩和は、この第2次補正予算成立に至るまでも頻繁な改正(要件緩和)が行われてきたが、これを理解しないと今回の改正についても理解が難しいため、本年2月に新型コロナ特例を設けてから今般の第2次補正予算成立に至る前までの要件緩和について以下にポイントを整理した。

1.1 生産指標要件の緩和
 雇調金の受給要件として生産指標(売上高や生産量等)が、対前年同月比で10%以上減少していることが必要であるが、これを本年4月1日から6月30日までの間(「緊急対応期間」という)5%以上減少に緩和した。また従来、生産指標は3カ月単位で確認をしていたが、これを単月単位に緩和している。その他、比較対象とする生産指標の対象月は、前年同月となるが、前年同月が適当でない場合は、①2年前の同月、②1カ月~1年前の間のいずれかの月でもかまわないこととなった。

1.2 休業等規模要件の緩和
 雇調金を受けるためには最低日数以上の休業がなければならない。従来は月単位の所定労働日数の1/20以上(大企業は1/15以上)とされていたが、本年1月24日以降にさかのぼり、1/40以上(大企業は1/30以上)に緩和された。

1.3 助成率の拡大
 雇調金の支給額は、原則として事業所ごとに算出される基準賃金額に助成率を乗じて計算される。この助成率は、中小企業が2/3(大企業1/2)となっていたが、緊急対応期間は4/5(大企業は2/3)へと引き上げられている。またさらなる上乗せとして、解雇等をしていない企業の場合の助成率は、9/10(大企業3/4)となっている。ただし、1日の助成額の上限として8,330円が設定されていたため、現実的にはこの上限額に抑えられてしまうという批判があった。

1.4 支給限度日数の拡大
 雇調金が支給される日数は、1年間で100日までとされていたが、緊急対応期間については別枠として、この100日のカウントはしないこととしている。

1.5 入社後の短期間在籍者要件の撤廃
 通常時の雇調金は、雇用してから6カ月未満の従業員は対象とならないが、新型コロナ特例により6カ月未満の従業員や、内定後1日も勤務していない従業員も対象としている。

1.6 教育訓練加算の拡充
 雇調金は、従業員を休業させるほか教育訓練を実施した場合も、その賃金相当額に対し助成金が加算される仕組みがあるが、緊急対応期間については1人当たり1,200円/日から2,400円/日(大企業は1,800円/日)に引上げが行われている。

1.7 雇用保険加入者以外も対象
 雇調金は週20時間以上就業する雇用保険加入者を対象とするが、緊急対応期間は週20時間未満の非加入者についても「緊急雇用安定助成金」として別途支給されることとなった。

1.8 短時間休業の要件緩和
 1日単位の休業だけでなく、1時間以上の休業についても対象従業員が一斉に休業することを条件に雇調金を支給していた。この条件を緩和し、労使協定により実施されるもので部署や部門、職種、勤務シフト等に基づく短時間休業も支給対象とすることとした。

1.9 残業相殺の要件停止
 従業員を休業等させる一方で、残業や休日労働をさせた場合、助成額からその分を控除する仕組みがあったが、本年1月24日以降の休業についてさかのぼって、この要件を停止する措置が取られている。新型コロナウイルス感染症対策として密集を回避するためには、交替出勤で所定外勤務を行いながら勤務することも必要となったからであろう。

1.10 計画届等の書類の簡素化、省略化
 雇調金はその休業等の実施前に休業等実施計画(変更)届を提出することが必要とされていたが、緊急対応期間中は6月30日までの事後提出を認めていた。さらに5月19日以降はその提出さえも不要となった。その他、通常は提出が必要とされる従業員代表の選任書、就業規則等についても申請書類が整備されていれば提出不要となっている。

1.11 小規模事業主の申請書類等簡略化
 従業員がおおむね20人以下の場合は、実際に支払う休業手当の額を利用して助成額を算定できるほか、申請書を簡素化して小規模事業主用のフォーマットを別途利用することが可能となった。

1.12 助成額算定における選択肢の拡充
 原則として前年度の労働保険料申告書において申告した賃金総額を基に雇調金の支給日額を算定することとされていたが、所得税徴収高計算書(いわゆる源泉所得税納付書)の給与支給額を基に算出した支給日額を選択することができることとなった。さらに従業員がおおむね20人以下の小規模事業主は1.11に記載の選択肢を選ぶことができる。

1.13 申請期限の緩和
 雇調金の申請期限は、支給対象期間(給与の締切期間ごとに申請)の最終日の翌日から2カ月以内とされているが、対象期間の初日が本年1月24日から5月31日までのものは、特例として本年8月31日までに申請すればよいこととされている。

今回の第2次補正予算成立による要件緩和

 第2次補正予算成立によって、これまで要件緩和されてきた雇調金についてさらにどんな改正が行われたのか以下で確認したい。

次頁では、第2次補正予算成立による要件緩和のポイントと、申請上の留意点をみていく。

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