給付金の申請自粛を呼びかけるのではなく、所得に応じた「定額増税」を検討してみては?

Opinion

税理士 熊王征秀

給付金についての提言

 新型コロナウイルスの緊急経済対策として、すべての国民に所得制限なしで一律10万円を支給する補正予算案が4月20日に閣議決定された(特別定額給付金(仮称))。減収世帯に限定して30万円を支給することを閣議決定したばかりであるが、申請手続がわかりづらいことに加え、公明党からの強い要請を受けたこともあり、安倍内閣は30万円の給付を撤回したうえでの補正予算案の組替えを余儀なくされたようである。

 閣議決定のやり直しなど、まさに前代未聞の醜態である。リーダー次第でこうも機能不全に陥るものであろうか…。朝令暮改を地で行くような迷走ぶりに国民誰もが暗澹とした思いでいることであろう。

 2009年に麻生政権で実施した定額給付金は、所得制限なしのバラマキ政策であったことが批判の対象となったところではあるが、今回の給付金制度は生活支援のためのものであり、景気対策ではないことに注意する必要がある。給付が遅れたら減収世帯は日常生活そのものに支障をきたすことになるのであるから、スピード重視のためには所得制限はしないで一律給付にせざるを得ないのである。

 代議士の先生方は、おそらくは国民向けのPRであろう…、「自分は辞退する」などと発言しているとの報道がされている。かと思うと、とある県知事は県庁の職員に給付金の寄付を強要するなど、そこかしこでのちぐはぐな対応や発言が物議を醸しているようである。給付金の請求を情に訴えてやめさせて、果たしてどの程度の効果があるのだろうか…。

 10万円の給付により13兆円程度の財源が必要になる。消費税に換算するとおよそ5%分の税収に相当するから半端な金額ではない。この負担額は、いずれは国民に税金として跳ね返ってくるということを我々は忘れてはならない。東日本大震災の財源として創設された復興特別税は、所得税の2.1%を追加で負担するものであるが、現時点でまだ18年間の支払(天引き)が残っている。コロナ騒動が一段落したところで「コロナ特別税」とでも銘打って新税を創設し、復興特別税とあわせて5%程度の税負担を強いられるような予感がしてならない。

 今回の給付金は所得制限なしで支給されることに問題があるのは事実である。そこで、1998年に経済対策として導入された「定額減税」の逆バージョンとして、「定額増税」の実施を提案してみたい。年末調整あるいは確定申告において、一定の所得以上の納税者に対して、年税額に10万円を加算するのである。すでに支給済の給付金を加算するわけであるから増税ではなく、バラマキとの批判もかわすことができると思うのである。「私は申請しない」などといかにも自慢げに言いふらすよりはよっぽどマシではないだろうか…。

納税猶予についての提言

 新型コロナウイルスの影響により売上が激減した事業者については申請により納税の猶予が認められている。新聞報道などによると、税金の他に社会保険料についても支払を猶予するとのことであるが、社会保険料のうち、従業員負担分は純然たる預り金であり、これまでも支払を猶予することには問題があるように思われる。給料から天引きする源泉税も同様である。

 これらの税金や保険料の支払を猶予するということは、言うなれば事実上使い込みを認容するということにならないであろうか。厳しい意見のようではあるが、モラルハザードを防止する意味からも、従業員負担の社会保険料と源泉税についてはきっちりと支払(納税)を義務づける一方で、補助金や貸付制度による救済を検討する必要があるように思われる。

新型コロナウイルス感染症拡大防止に対応した税務上の取扱いについて

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