新型コロナ危機下に株主総会を予定どおり行うか、未来を見据えて判断を(2)

Opinion

データアナリスト 三井千絵

株主総会の延期について再び考えてみたい

 先週(4月21日)、「新型コロナ危機下に株主総会を予定どおり行うか、未来を見据えて判断を」という記事を公開してから1週間経ち、引き続き関係者の声を聞いているが、数社は基準日を変更し株主総会を延期すると発表をしたものの、ほとんどの企業が4月27日現在、予定どおり決算を終わらせ、株主総会を開催しようとしているようだ。

 本稿では、先週末から今週の頭にかけて出てきた新たな動きと、前回の記事を公開した後に得た意見や情報等を紹介し、この問題について今考えるべき点を述べていきたい。

 日本の決算・監査はこれまでも他国と異なるスケジュール上の問題を抱えていた。それにもかかわらず外出自粛の状態においても予定どおり行うべきなのだろうか。決算・監査のクオリティ向上、緊急事態宣言中の経営・事業の体制のあり方、従業員・株主の安全に鑑み、1社でも多くの企業が株主総会の延期を積極的に検討されることを願いたい。本稿がその一助になれば幸いである。

配当基準日が障害になっているのか?

 前回の記事を見てくれた、あるビッグ4のパートナーは「監査先の企業において決算・監査業務が予定どおり進んでいなくても、企業側が決算承認に係る役員会の日程をいっこうにずらそうとしないことに、とても焦りを感じている」と言う。「訂正になっても知りませんよ」と念を押しているそうだ。日本公認会計士協会の手塚正彦会長は日本経済新聞社の取材に答え、株主総会や決算発表の延期といった対策について「企業に積極的な検討を求める」と改めて訴えた(日本経済新聞2020年4月21日配信)。

 また、前回の記事を見てはじめてこの問題に気づいたという投資家も多かった。こちらからの問いに改めて「有価証券報告書が遅れたとしても決算短信があるから(株主総会が予定どおり開催されても)大丈夫だと誤解していた」と語ってくれた。その中の多くの方が最終的には「やはり株主総会を遅らせるべきだ」と述べたが、中には「配当基準日は守ってもらわなければ困る」という意見もあった。

 数ある企業の中には、当然、影響が出ていないところもあるだろう。6月総会の企業が株主総会を遅らせるためには、すでに過ぎてしまった配当基準日(3月31日)を改めて別の日に変更しなければならず、これに抵抗を示す投資家も存在する。特に配当基準日以降に株式を売却したケースではそのような反発を予想することができる。

 しかし、これはすでに3月24日の時点で東京証券取引所から注意喚起されていた(「2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて」)。また、4月23日には、国際コーポレートガバナンス・ネットワーク(ICGN)がCOVID-19パンデミックが続く期間のガバナンスの優先順位についてステートメントを発表している。その中では、収益が下がり、財務の安定が脅かされることにより、従業員やサプライヤー、その他の関係者に影響を与えるような場合にはとりわけ、配当の削減や停止が望ましいと提言されている。

決算報告(監査)なき株主総会は株主のためになるのか?

 日本では多くの企業に監査役会および会計監査人が設置されている。決算(計算書類等)を株主総会に諮る前には取締役会で承認される必要がある。そして、取締役会は承認を行う前に、監査役会の監査報告を受ける必要がある。さらに監査役会は会計監査人の監査報告を受けなければならない。つまり、監査を受けることは、取締役の義務としても非常に重いものであり、この手続を十分に行っているかどうかはコーポレートガバナンス上の問題でもある。それは、取締役選任においても評価されるべき点である。

 議決権行使助言機関のISS社(Institutional Shareholder Services Inc.)は、4月22日に企業に向けたメッセージを送り始めた。その中で、「継続会方式しか選択肢がないのであれば仕方がないが、基準日を変更することで総会の延期は可能である」と明確に伝えたうえで、「選択肢があるにもかかわらず、決算が確定しない段階で株主総会を開催することは株主の視点に立つとはいえない。また当然、個別判断ではあるが、株主の視点に立っているとはいえない場合は否定的な立場に立たざるを得ない」と述べた。

 4月24日、経済産業省も大臣談話・声明(「企業決算・監査及び株主総会の対応について」)の中で、「6月末に開催されることが予定されている株主総会につき、その延期や継続会の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法とすることをご検討頂きたい」とし、そのために最大限のサポートをすることを発表している。

未来のために今何ができるのか?

 前回記事でも述べたとおり、日本の株主総会の日程については、コーポレートガバナンス・コード導入後に議論になってきた課題がいくつかある。基準日から株主総会まで3カ月も期間があり、この間に株式を売却しすでに保有していない投資家にも議決権があることや、決算期末から株主総会までの3カ月という短期間に会社法と金商法の2回の監査をしなければならないことなどだ。

 緊急事態宣言が発令され、多くの企業は非常に苦しい状況に置かれていることだろう。しかしテレワークの徹底や書類の電子化と同様、今年までできていなかったことを1つひとつ克服することは、企業の未来を変える力となる。今年基準日を変更し、株主総会を遅らせることができたら、来年もできるかもしれない。決算期末と配当基準日をずらすこともできるかもしれない。そうすると、海外の投資家から指摘されている「金商法に基づく監査が完了した法定開示書類を株主総会前に」提出する道、すなわち株主総会前の有価証券報告書の提出につながるかもしれない。さらには、監査の日程を十分に確保することができれば、来年から義務化される監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters;KAM)も充実するかもしれない。

 なによりも今、企業の経営者は、社会と従業員、そして株主の安全を第一に考えるべきだろう。任期というのはデリケートな問題だと思われるが、現状では6月末にそれほど事態が好転しているとは考えがたい。引き続き緊急事態宣言下、あるいは外出自粛が続く中での経営の舵取りとなるだろう。急いで体制変更しようとするより、まずは危機を乗り越えることに1、2カ月集中することは、関係者の理解が得られるところといえるのではないだろうか。

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