コロナと戦う開示②:開示で社会に貢献 GMOインターネット

Opinion

データアナリスト 三井千絵

 新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う外出自粛は多くの企業や人々の生活、事業に影響を与えている。そんな中で、決算開示、株主総会のシーズンを迎え、過去に経験のない事態への様々な対応が求められている。このような逆境において、開示自体を企業の事業機会としたことが、担当アナリストに評価されている会社がある。それはGMOインターネット株式会社(以下、GMO)だ。

  今回は、このGMOの開示の取組みについて紹介する。

1月26日に4,000人の在宅勤務を発表

 新型コロナウイルスが、まだ現在ほどの全世界的な広がりを見せていなかった頃、GMOではいち早く全社の在宅勤務を決定、プレスリリースでは「事業継続ならびに当社グループを支えるすべてのパートナー(従業員)の安全確保を目的」と説明した1。また、同社代表取締役会長兼社長の熊谷正寿氏は1月29日に更新した自身のブログの中で「GMOでは2011年より、大地震、大災害、戦争、テロ、疫病の蔓延などの有事に備えて、本社機能の地方移転、在宅勤務体制の構築、N95マスク、ヘルメットなど災害用品の備蓄、そして年に一度の避難&在宅訓練など、いわゆるBCP(事業継続計画)を行って来ました」と自社の取組みを説明した。

 そして、2月12日には情報発信サイトを立ち上げ2、新型コロナウイルスに関するGMOグループの取組み(GMOインターネットグループの対応)を発信するとともに、様々な関連サイトのリンク集を提供した。

 このリンク集では、国内の感染者数の動向に関するサイトから、ニュースサイト、世界の感染者数・新型コロナウイルス感染症に関する動向を伝えるサイト、WHOをはじめとした関連諸機関のサイト等が掲載されている。

 また、GMOの取組みの中でも特筆すべき独特のものとしては、在宅勤務を導入してからの自社の状況を“中継”したことがあげられる。当初の予定は2週間だったが、その後在宅勤務が長期化するのに伴い、様々な気付きや会社としての対応(やむを得ず出社した場合の検温やマスクの着用、消毒等をいち早く実施)をその都度配信している3。また全従業員へアンケートを実施して、その結果もつまびらかに開示した4

 例えば、在宅勤務導入によって(業務に支障が生じた点として)、「「リモート環境が遅い/アクセスできない」「椅子机とPCサプライがないことによる作業効率低下」、コミュニケーション面で「コミュニケーションの減少」、業務面で「紙ベースの業務に支障」「業務上、在宅では対応が難しい」といった課題が浮き彫りになった」(原文ママ)と述べられている。

 ある担当アナリストは、実際に自社がテレワークに移行する際に、このサイトを参考にしていたという。

テレワークの経験を情報発信すること自体を自社の事業機会に

 もともとネットインフラを提供するGMOにとって、テレワークの促進は最大の事業機会となる。5月12日に開催された決算説明会でも、熊谷氏は「われわれが思っていた時代が、早くやってきた。3年かけて起こる変化が3ヶ月で達成された」5と述べる。導入したテレワークのどのようなところに課題があるかを徹底的に分析することは、自らのサービス向上にもつながる。

 また前述の社内アンケート結果には、自由記述コメントが掲載されており、その抜粋として、「満員の通勤電車に乗るストレスから予想以上に解放され、在宅勤務の良さを実感いたしました。営業先のお客様も事情を汲んで下さり、オンライン商談を実施いたしました。」といった肯定的なものだけでなく、「幼稚園に通う子供がいるほか、書斎などもないため、子供がいる時間帯は騒がしい状況となっています。家族に協力を得て打合せの時間は静かにしてもらうなど対応していますが家族にとっても多少ストレスは感じているようです。」(原文ママ)といったものも掲載している。これらはテレワークを導入した企業で働く多くの方が共感するところではないだろうか。

 そして、アンケートで判明した問題(業務上の支障)に対する対処を続けて開示している。具体的には、光熱費が増加し、机やモニターの購入費用、インターネット環境整備の費用などがかかっているという指摘があったことを受けて、オフィス運用コストが削減された分を全従業員に還元すること、ネットワーク費用を若干補填(自社が提供するサービスを特別価格で提供)することを発表した。メルカリなど他にもいくつかの企業で在宅勤務手当が導入されたが、そういった流れを生む1つのきっかけとなった6

未来の仕事のあり方

 この緊急事態宣言が終了した後は、各社はどのような対応をするのだろうか。この期間に投資した自宅用のPCや机をそのままにし、以前のように満員電車に揺られてオフィスへ通うのだろうか。コロナと戦う企業の開示には、その企業がコロナ後の未来をどうみているかという視座が含まれることが重要だ。GMOはそれが自社のメインビジネスに直結するためメッセージは明快だ。このテレワークへの取組みすべてが、未来の自社の事業への投資になっている。

 2月25日には全国で新卒、中途採用における選考をオンラインで実施したというプレスリリースを発表した。また12月決算企業であるため、3月末に株主総会を開催したが、Social Distancingという言葉を体現するかのように、株主に来場を控えることを呼びかけ、結果的には毎年1,000〜2,000名程度が来場するところ今年は18名であったことも開示した。また、オンラインでの視聴を呼びかけ、来場を控えてもらう代わりに、事前質問を受け付けて質疑応答の時間に可能な限り答えることを発表していた7

 また4月17日には顧客との手続における印鑑の使用を完全に廃止したことを発表した8

 GMOの採用、株主総会、印鑑実務に関する取組みやメッセージは、どれも日本企業の未来に示唆を与えるものばかりだ。

 この一連のインターネットを通じた情報発信は、同業他社を見慣れているはずのIT担当アナリストすら感心させたが、それは開示の仕方ではなく、すべての対応が未来の仕事のあり方を指南しており一貫性のあるメッセージとなっていること、そして開示を通して、テレワークに関する先駆者となり社会に貢献していたことが、投資家のココロをつかんだのかもしれない。

  1. https://www.gmo.jp/news/article/6641/
  2. https://www.gmo.jp/info/news/36/
  3. https://www.gmo.jp/news/article/6666/
  4. https://www.gmo.jp/news/article/6699/
  5. https://ir.gmo.jp/roadshow/20200512/
  6. https://www.gmo.jp/news/article/6741/
  7. https://www.gmo.jp/ir_news/article/567/
  8. https://www.gmo.jp/news/article/6749/(その後、自社の電子印鑑サービスに関する新しい取組みを発表している)

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