コロナと戦う開示①:SHIFT社の決算説明会資料

Opinion

データアナリスト 三井千絵

 GW明けにはいくつかの都道府県では自粛体制の緩和が行われる見込みだが、いまだ東京都では窮屈な日々を送っている人も多いだろう。3月末から始まった外出自粛ももうすぐ2カ月になる。このような中、積極的にコロナ対策に取り組み、それを開示していた企業もみられる。そのうち、投資家から高い評価を得たケースを紹介する。

冒頭に好調な業績…ではなくコロナ感染の説明

 株式会社SHIFT(証券コード:3697)の「2020年8月期 第2四半期 決算説明会資料」は、なかなか投資家に人気だ。特に、少数の企業を長期に保有するアクティブ運用の投資家の中で高く評価されている。

 この4月9日に行われた決算説明会の資料は、表紙をめくった最初の頁が「市場の状況」でも「今期のハイライト」でもなく、「4月5日発表のコロナ発症について」。4月4日に感染が発覚した同社社員の、潜伏期間も含めた過去14日間に遡り、接触者をリストアップして在宅指示を出したこと、自社判断によって業務スペースの消毒をしたこと、(当該社員は発熱後に出社しておらず)濃厚接触者がいないこと等の説明から始まった。

 次の頁では、SHIFTが1月29日からコロナ対策をどのように実行してきたかを詳細に説明している。この中には、毎朝の検温や在宅勤務の導入とあわせて、「国内最大級『危険手当』の導入」1が紹介されている。

1年前から緊急時を想定した財務施策

 この2頁の説明に続けて、ようやく今期の業績の説明(「1.FY2020 2Qおよび上期業績」)が出てくる。

 連結貸借対照表の説明のところで(14頁参照)、FY2019(2019年度)から緊急時を想定した財務施策を実施していたことが書かれており(約1年前にエクイティによる資金調達を行っている)、手元資金の厚さを強調している。コミットメントラインをすべて実行しても自己資本比率は47%と、健全な財務基盤を維持できることを説明している。

詳細な人事戦略

 その後、「2.KPIの推移」「3.FY2020アクション計画と2Q成果」と説明が続く。

 これを見ると、このFY2020にいろいろな新しい改革を開始する予定であったことがわかる。そして、それらはこの状況下でも着々と進められている。例えば、あちこちで内定取消しのニュースが聞かれた(2020年)4月にもグループ企業全体で290名を採用したことが書かれている。

 さらに興味深いのは、このアクションプランと2Q成果のセクションでは、同社の人事戦略についてかなり詳細に書かれていることだ。「社員アンケート」の結果として(他社からの)転職者が同社に入社して給与がどれくらい上がったかを説明し(31頁)、「従業員の満足度測定」や各種研修システムとそのインセンティブに関しても詳細な説明がなされている(32頁以下)。

Afterコロナの経営戦略

 同セクションの最後に「Afterコロナ」というスライドを設けて(40頁)、コロナ後に起こるIT業界の変化と将来の予測をまとめ、そこで同社が推進していく事業ポジションを示している。

 具体的には、働く環境や仕事の評価、働き方を含めたライフスタイルやそれに基づく価値観自体が変わるのではないかと見立てる。それに対し、IT業界においても、クラウド化、販管費のシェアを進め、価値観・ライフスタイルの変化にあわせたサービスが登場すると予測する。そこに同社がどのようにオポチュニティをみているかを述べているのである。

 確かにIT企業にとって、この状況はオポチュニティかもしれない。SHIFTがいうように、在宅勤務を進めて業務の効率化に成功したら、この事態が収束したとしても、元に戻ることはないだろう。多くの企業にとって深刻な危機である新型ウイルスのパンデミックも、一部の企業にとっては確実にチャンスとなりうる。

 しかし、投資家は、事業の明るい面だけをみて判断しているわけではない。リスク管理は十分だろうか。ライバルの動きはどうなっているのか。このような状況を狙ったサイバーリスクはどうだろうか。テレワークは本当にうまくいっているだろうか。社内のコミュニケーションは大丈夫だったとしても、顧客とのコミュニケーションはどうか・・・。

 IT企業にとって、今の時期に業績が伸びたとしても、それはむしろ当たり前かもしれない。そのような中で、業績より先に新型コロナウイルス感染やその対応について詳細に説明しているところが、投資家から好感を得られた要因なのではないかと考えている。

  1. 同社プレスリリースによると、在宅勤務が難しい一部の従業員に対して、日額3,000~4,000円の「危険手当」の支払を決定している。

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