ISS 、継続会を選択した企業の議案に対し「棄権」推奨

Opinion

 データアナリスト 三井千絵

 去る5月11日、議決権行使助言サービスをグローバルに展開しているInstitutional Shareholder Services(ISS)は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえ、2020年6月1日以降に開催される株主総会に対する議決権行使基準の対応方針を発表した(「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」)。感染症の世界的流行が企業活動に与える影響を考慮しながらも、「株主総会とは何であるか」を押さえたメッセージとなった。

ROE基準の適用猶予

 まず冒頭で、ISSは、過去5期平均のROEが5%を下回りかつ改善が見られない場合は取締役選任議案に反対する、という通常時の方針を一時的に停止すると述べている。現在のような状況下では、ROEも企業の資本生産性の指標として必ずしも適切であるとはいえない、という判断である。

継続会を選択した企業への対応

 次に、「一部の3月決算企業の決算業務や会計監査人、監査役、監査等委員会、監査委員会の監査業務に遅延が生じて」おり、「決算業務や監査業務が間に合わない企業に対して規制当局は、定時株主総会の7月以降への延期と継続会の2つの選択肢を用意」したことに言及する。

 株主総会を延期するためには、配当・議決権基準日の変更が必要となるが、それについては一部の投資家から聞かれるような(基準日変更を)問題視する表現は見当たらない。

 一方、継続会については、この方式を選択してしまうと、事業報告、連結計算書類、計算書類、監査報告書を株主に提供することなく株主総会が開催され、これらの書類がない状態で決議をしなければならない、という問題点を指摘している。

 そして「定時株主総会は、事業報告、連結計算書類、計算書類や監査報告書を株主に提供した上で開催するのが、本来のあり方」と述べ、「企業が継続会を選択した場合、株主はそれが意味することを注意深く考慮する必要」があるとしたうえで、(継続会を選択した場合の)各議案への投票について推奨する対応を説明している。

剰余金処分議案、会計監査人選任議案、報酬議案は棄権推奨

 ISSは、剰余金処分議案について「監査が未了で計算書類を確認できない段階で配当議案が決議される場合、結果的に決議された配当が過大であるリスクが懸念」されるとし、「棄権」を推奨すると述べている。

 また、会計監査人選任議案についても、「監査が完了せず監査報告書が提供されない場合、株主は会計監査人の交代の是非を判断することは困難」であることから、剰余金処分議案と同様に「棄権」を推奨する。

 さらに、報酬議案についても、「監査が完了せず、事業報告、連結計算書類、計算書類や監査報告書がない中では株主は議案を評価することが困難」であること、だからといって「判断に必要な情報がないことのみを理由に反対することも適切では」ないことから、報酬枠の増加を求める場合には、業績連動報酬の導入や増加を目的としていることが明らかでなければ「棄権」を推奨している(それ以外の場合は通常の議決権行使基準を適用するとしている)。

 なお、「棄権」票は、定足数に含められ、賛成率の分母に入り、決して議決権の不行使を意味するものではないことを強調している。

役員選任議案

 役員の選任議案に関して、ISSは、役員の独立性を評価する十分な情報が提供されなければ、過去の開示書類に基づき調査を行ったうえで独立性を判断すると述べている。また、過去の開示書類では得られないせめてもの情報である、“この1年の取締役会の出席状況”が開示されないのであれば、役員の再任議案について「反対」を推奨せざるを得ないと説明している。

 つまり、議案に必要な情報がなくても自ら取得できるもので判断すると述べているのだ。これは、企業側に配慮したといえるのではないだろうか。

 しかし、監査役が再任する場合、独立性はともかく、今年の監査報告書がないのに選任議案に投票できるのか(つまり、監査役の仕事の成果を見なくてよいのか)、場合によっては監査報告書を出す前に退任することについてはどうなのかと、やや疑問は残る。

 以上のように、ISSは、株主総会の本来のあり方をしっかりと考慮したうえで、かつ、現状に配慮した案を提示したといえるのではないだろうか。様々な意見の投資家がおり、そのすべてが満足する方法はないが、株主総会に必要な書類がそろわないというのは相当の“非常事態”だ。人事に緊急性がないのであれば、たとえ株主総会を延期したとしても、すべての書類をそろえたうえで議決権行使を株主に依頼することは、株主を尊重しているともいえるし、長期的な関係向上にもつながるのではないだろうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました