テレワーク時代における働き方で思うこと

Opinion

東北大学会計大学院 教授・公認会計士
榊 正壽

パンデミック状況下におけるテレワークの進展

 このパンデミックにおいてテレワークは大変な広がりを見せた。それは我々が関わる会計や監査の分野でも同様である。

 日々、テレワークを実施するにあたって従来とは異なる会議や仕事の進め方のノーハウがあると感じている。

テレワークにおける技術的制約

 その中で、一つ重要なポイントは、現在のテクノロジーでは一定の制約があることを理解しておかなければ、テレワークによる業務の順調な進行が困難になるということ。特に通信環境の問題で、オンラインでのコミュニケーションがスムーズに行えないケースは、多くの人が体験しているであろう。

 テレワークで用いるITツールやアプリケーションは、一定レベルの通信環境を前提としているが、現実には安定的に使用できないような事態が起きている。特に、これほどまでに急速にテレワークが浸透することは予想外であったため、テクノロジーのキャパシティを超えてしまった。

 したがって、テレワークで業務を行うに際しては、このような技術的な制約を前提とした仕事の進め方が必要となる。

技術的な制約下における柔軟性

 動画によるコミュニケーション、音声によるコミュニケーション、テキストによるコミュニケーション、同じ言葉を用いても伝わり方は異なる。そのため、ケースバイケースで臨機応変に技術を選択することが求められる。「臨機応変」というのは、理屈ではなく肌感覚、つまり「実務」の問題だ。会計や監査に関わる業務は基本的に「実務」であるため、この「臨機応変」が重要なポイントになる。

 パンデミック以前も「働き方改革」下でリモートでのコミュニケーションは行われてきたが、それは対面型コミュニケーションの代替という意味が強かった。

 しかしながら昨今では、このリモートでのコミュニケーションがメインストリームになりつつある。

 ここで考えておきたいのは、コミュニケーションの「タイムラグ」である。

 対面では瞬時に相手の反応が確認できるが、テレワークにおいてはタイムラグが生じる。

 タイムラグをストレスなく受け入れるための頭の切替えも必要となる。

 通信ソフトも含めテレワークのやり方を統合しようとする試みは必ずしも有効ではない。いろいろなチャネルを持っていたほうが、「臨機応変」に行動できる。

 今後のテレワークにおいてはこのような人間の柔軟性を遺憾なく発揮し、(日々技術的に進歩する)様々なツールを使いこなした上で新しい「働き方」を実現していかなくてはならない。

会計・監査分野での考察

 会計や監査に関する業務は、会社の数字、それを裏付ける証憑類など主としてテキスト情報のコミュニケーションによって成り立っている。したがって業務を遂行するにあたり、本来、テレワークに向いている業務である。しかしながら、コロナ危機以前のやり方をそのままテレワークで遂行しようとしても必ずしもうまくいくわけではない。これについては、多くの方々が実感されていると思う。

 例えば、下記のような事象がテレワーク業務のボトルネックとなっているケースがある。

・紙の資料が電子化(PDF化等)されておらず紙のファイルにアクセスする必要がある。
・システムが社内からのみアクセスできるのか(イントラネット)、社外からもアクセスできるのか(エクトラネット)の整理がされておらず、従来の事務フローを踏襲するとテレワークのみでのプロセスに支障が生じる。
・法令上、郵送が必須の書類が存在する(役所関係等)。
・ネットワークのキャパシティの制約により、社外からのアクセスパフォーマンスが悪く、想定の時間で事務プロセスが完了しまない。

 業務の本質的な部分はこれまでと変わることはないが、業務を遂行するにあたり、不確実性や技術的な制約が存在することを想定して新しい業務の組み立てを工夫していくことが必要になる。

 このような不確実性の高い状況では、機械的なマニュアル対応ではなく、経験の積み重ね(それによって蓄積される暗黙知)、いわばヒューリスティックな対応が重要になる。要は柔軟で臨機応変な対応が求められるのだ。

ヒューリスティックな対応が重要になる以上、テレワークの遂行においては、人間の心に対するケアも重要になる。対面ですら相手の心を理解することは難しい。テレワークとなればなおさらだ。顔色をうかがったり、その場の雰囲気を読んだりすることは至難のワザである。

テレワーク時代の「働き方」と「コミュニケーション」

 こうした「空気感」を補完するために、現在のオンライン会議システムにも常備されているような意思表示を表すような機能(手を挙げるアイコンの表示等)、感情を表すような機能(スタンプ、顔文字など)は今後も進化するだろう。会計や監査といった専門的な業務に特化したテクノロジーが開発されることもあるだろう。

 実務における個々人の工夫をお互いに共有するという活動も大切なことである。ちなみにこの原稿はほぼ完全にスマートフォンの音声認識で作成している。これもテクノロジーの発達のなせる技だと思われるが、現在のテレワークの拡大に伴いこの種の発展はより急速に進むだろう。

 会計や監査の分野ではテクノロジーの活用が、数値等の情報処理(自動仕訳や異常検知など)に集中しているが、今後はコミュニケーション分野にも波及していくことが期待される。

コメント

タイトルとURLをコピーしました