コロナは経理をどう変えるか②:決算・監査の常時化で真のリスクマネジメントを

Opinion

米国公認会計士 河辺亮二

 前回は、コロナ後に求められる経理の能力として、①リスク耐性、②フレキシビリティ(柔軟性)、③レジリエンス(回復力)をあげたうえで、たこつぼ的な経理業務を標準化すべきこと、データのインテグレーションでリスク耐性を高めていくべきことを述べた。今回は、レジリエンスを高めるタイムリーな業績予測の重要性、リモートワーク環境の構築とデータセキュリティ等について解説していきたい。

タイムリーな業績予測の重要性

新型コロナウイルス感染拡大で業績予測を立てられない!

 今回の新型コロナウイルス感染拡大による最大の影響は、世界規模でのサプライチェーンの分断により工場が生産停止に追い込まれてしまったこと、また世界規模でのロックダウンに伴い、消費マインドが落ち込み、受注が大幅に減少したことであると考えられる。さらに、パンデミックの収束が見えないため、経理スタッフは今年度、来年度の業績の予測が立てられず、決算発表やIRの発表が延期となることに加え、監査委員会等、取締役会、さらには株主総会等への報告が玉突きで遅延するリスクに晒されている。

 企業においては、通常、各事業部門(または各社)から提出された受注計画や予算に基づいて年間の業績予想、活動計画を立て、四半期、月次の予実算偏差をコントロールするのが一般的である。この各事業部門から提出される受注計画や予算は、年度末に各部門からの積上げ、積増しによって編成されるが、その合意形成には多くの工数がかかる。

 ところが、今回のコロナ危機のような不測の事態が発生した場合には、販売計画に大幅な修正が発生し、見通しが立たない中で、何らかの仮定に基づいたシナリオごとに売上、業績の予想を行う必要がある。さらに、その先の経営環境の変化に応じて、想定シナリオを柔軟に変更し、適時にアップデートした業績予想情報を提供していく必要に迫られている。

業績予測を常時化せよ

 そのためには、売上予測を予算のような年度行事に過度に依存させるのではなく、SFA(Sales Force Automation:営業支援)システムを導入してデータをグループ全体で共有し、引合いから受注に至るまでの日々の営業情報を一元管理することで、受注や売上の予測精度を高めるべきである。このように、常時シナリオ分析を行うことができる環境を整備し、業績見通し等の早期化を実現することで、業績悪化に対して先手で対応することもでき、事業部門はもちろん組織全体のレジリエンス(回復力)を高めることが可能になる。

 ビジネスデータの活用範囲を広めていくことで、会社のサプライチェーンやバリューチェーンに何らかの問題が起きる前に、その予兆を把握することが可能になる。これによって、事業を継続させるために、リスクを回避すべきか、受容すべきか、どのように低減すべきか、どこかに転嫁すべきか、といった選択肢の中から適切な対応をとることができるだろう。

 経理が扱うビジネスデータは、すでに発生(実現)した事後的なデータだけではなく、これから発生(実現)するであろう、将来予測データも含まれる。とりわけ、将来に対するリスク情報(自然災害等も含む)は外部に対して積極的に開示していくことも求められ、今後、的確な情報をタイムリーに収集する能力が一層求められることになるだろう。

 これからの経理においては、データの収集をスプレッドシートなどを通じて属人的に行うのではなく、システムを通じて自動化する必要がある。さらには、最新技術を活用してデータを分析し、将来予測の精度を高めることで、プロアクティブな対策を打つための準備をしておきたい。

タイムリーなデータ異常値の把握

 次ページでは、データを活用した異常値把握について論じる。

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