コロナと戦う開示③:事業の将来を見据えたAOKIの追加情報開示

Opinion

データアナリスト 三井千絵

 新型コロナウイルス新規感染者数は日本では現在減じており、5月25日に緊急事態宣言も全国で解除された。とはいえ、決算開示、株主総会をすぐに通常どおりに、といくわけではないだろうし、投資家の中でも「今年の開示は(うまくできなくても)仕方がない」という人もいる。

 金融庁は5月21日、新型コロナウイルス感染症の影響に関する「会計上の見積りにおける追加情報」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」への開示についてメッセージを発した(「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」)。この追加情報という点でAOKIホールディングス(以下、AOKI)の開示を取り上げたい(拙稿「新型コロナウイルスによる危機を乗り越え、健全な事業活動の為に」もあわせて参照されたい)。

会計上の見積りに関する追加情報

 3月末決算の開示は外出自粛等が要請される中で行われ、現場の確認等が困難であった。このような状況下の決算において、何よりも難しいのは、決算の中に含まれる「会計上の見積り」であろう。貸借対照表(BS)に含まれる資産や金融資産の評価にはマネジメントの見積りが必要で、場合によっては減損しなければならない。

 これについては、企業会計基準委員会(ASBJ)から議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(4月10日公表、5月11日追補)が提示されている。

 簡単にいうと「どんなに難しくても“わかりません”ではなく、どういう仮定をおいて見積りをしたかを“追加情報”として説明する」ことを求めている。しかし、その後発表された決算では、多くの企業でこの記載は行われていなかった。そして投資家の中には、このような情報が本来記載されなければならないことを知らず、“なんとなく、今年の決算にはコロナの影響が出ていないようにみえる”とフラストレーションを抱えた人もいた。

事業の回復時期と売上減の仮定

 このような中で、5月20日に発表されたAOKIの決算短信には追加情報が記載されていた。今回は、これについて紹介したい。

事業の見通し

 AOKIは、主力事業であるファッション事業のほか、ブライダル、カフェ、ジム、カラオケといった事業を運営しており、まさにコロナの影響の直撃を受けたであろう事業構成である。実際に決算短信では、その影響の大きさを数字を挙げて説明している。今後の見通しとして、収束時期や売上に与える影響を合理的に算定することが困難であるとして業績予想の開示を未定としている。

(4)今後の見通し  
 今後の見通しにつきましては、17ページの「重要な後発事象」に記載しましたとおり、現段階において新型コロナウイルス感染症拡大の沈静化の時期や当社グループの売上高に与える影響等を合理的に算定することが困難であることなどから、2021年3月期の通期連結業績予想は未定としております。

株式会社AOKIホールディングス「2020年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2020年5月20日)4頁

次ページでは、AOKIの「会計上の見積りに関する追記情報」の開示を紹介する。

追加情報としての会計上の見積り

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