コロナと戦う開示③:事業の将来を見据えたAOKIの追加情報開示

Opinion

事業の回復時期と売上減の仮定(続き)

追加情報としての会計上の見積り

 そして連結財務諸表に続けて、追加情報として会計上の見積りについての注記を行っている(「(5)連結財務諸表に関する注記事項(追加情報)」、同社決算短信12〜13頁、下記抜粋参照)。

 まず“現在入手可能な情報をもとに合理的と考えられる見積り・判断を行っているが、不確実性が伴うため、実際の結果が異なる可能性がある”と断ったうえで、それぞれの事業においてどれくらい影響がありうるかを記載している。たとえば(翌年度の売上高について今年度と比較して)ファッションでは25%減、ブライダルは5〜25%減、エンターテイメントは25%減といった感じだ。そして最短で2020年6月末、最長で2021年3月末に収束するというシナリオで、見積りを行ったとされている。

 続けて、とりわけ不確実性の高い見積りの内容として、固定資産の減損と繰延税金資産の回収可能性をあげ、この中で将来キャッシュフローをどういう形で見積ったかを明記している。

投資家が求める開示

 筆者は、イベント・外出自粛が始まった3月ごろから、パンデミックの影響下での開示について、投資家の声を集めていた。そこで耳にした意見の中に「2年後には経済が正常になって需要が戻り、キャッシュフローも以前と同じ水準まで回復すると仮定して、その中間地点である1年後はその半分ぐらいまで回復しているという前提を置いた場合に、現在価値を計算し減損の必要がない・・・などといった説明をしてほしい」といったものがあった(参考記事「減損緩和は助けになるのか?」)。

 シンプルだが、これが大半の投資家が求めている説明だろう。前提を説明さえしてくれれば、今度はその前提が適切かどうかを企業と議論したり、投資家自身の見積りを反映させて判断をすることができるからだ。

 筆者は、これまでAOKI自体を分析してきたわけではないので、この25%が妥当かどうかについてはコメントを控えるが、今回のAOKIの開示については、筆者の周囲の投資家には評判がよかった。もちろん様々な投資家がいるので、中には「業績予想がない」といった点に物足りなさを感じる人もいるかもしれないが、現在の状況下では、この追加情報は、何よりも重要な情報といえるだろう。


 以下は、実際の開示の抜粋である。

(追加情報)
(会計上の見積り)

 新型コロナウイルス感染症の影響は、5月20日(本日)現在においても継続しており、当社グループの事業活動にも大きな影響を及ぼしています。当社グループは、連結財務諸表の作成にあたって様々な会計上の見積りを行っておりますが、新型コロナウイルス感染症の影響を会計上の見積りに反映するにあたり、主として次のような仮定を置いております。
 なお、以下の記載は現在の状況及び入手可能な情報に基づき、合理的と考えられる見積り及び判断を行っておりますが、不確実性の極めて高い環境下にあり、新型コロナウイルス感染症の広がりや収束時期等の見積りには不確実性を伴うため、実際の結果はこれらの見積りと異なる場合があります。

 新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は、各事業において当社グループが店舗展開する国内全ての地域において今後も一定程度の広がりを見せ、関係する店舗における売上高、営業利益は、感染症が収束し国内の経済活動が回復するまでの間、店舗の稼働状況、需要の低下等に応じて減少する可能性があります。それぞれの事業において、翌連結会計年度の売上高は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた当連結会計年度と比べ、ファッション事業で同水準から25%程度、アニヴェルセル・ブライダル事業で5%から25%程度及びエンターテイメント事業で同水準から25%程度減少する可能性があると見込んでおります。
 新型コロナウイルス感染症の収束時期は不確実であり予測が困難ですが、当社グループは、最善の見積りとして、最短で2020年6月末及び最長で2021年3月末に収束するシナリオを想定しており、一部の会計上の見積りについては、期待値による方法を用いて財務諸表計上額を算定しております。
 当社グループは、国内の一般消費者の生活必需品的要素の強い商品を扱うファッション事業や安定的に一定の需要が見込まれる非日常の空間を提供するアニヴェルセル・ブライダル事業、また、ライフスタイルの一部として浸透しているエンターテイメント事業を展開しているため、新型コロナウイルス感染症の収束後は、顧客の需要は同感染症の拡大以前と概ね同水準に回復する可能性が高いと見込んでおります。

 当社グループの連結財務諸表の作成にあたり、不確実性の高い会計上の見積りの内容は次のとおりです。
1.固定資産の減損
 当社グループでは、2020年3月末における減損の兆候の判定及び回収可能価額の算定にあたって、将来キャッシュ・フローの見積りに新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を反映しており、店舗展開する国内全ての地域において今後も一定の広がりを見せる可能性があるとの仮定を置き、将来キャッシュ・フローにマイナスの影響を与えるものとして見積っております。その収束時期には著しい不確実性を伴いますが、当社グループは、3か月から1年の範囲で収束する可能性を織り込んだ複数のシナリオを設け、期待値法により将来キャッシュ・フローの見積りを行っております。

2.繰延税金資産の回収可能性
 当社グループは、繰延税金資産の計上額を見積る場合、合理的な仮定に基づく業績予測によって、将来の課税所得又は税務上の欠損金を見積ることとしており、2020年3月末における業績予測には新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を反映しております。当社グループが店舗展開する国内全ての地域において今後も一定の広がりを見せる可能性があるとの仮定を置き、将来の業績予測にマイナスの影響を与えるものとして見積っております。その収束時期には著しい不確実性を伴いますが、当社グループは、3か月から1年の範囲で収束する可能性を織り込んだ複数のシナリオを設けて見積りを行っております。

株式会社AOKIホールディングス「2020年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2020年5月20日)12〜13頁

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