「コロナ解雇」は認められる?:整理解雇・雇止めの考え方

人事・労務

森・濱田松本法律事務所
弁護士 
荒井太一

 コロナ禍の影響はすさまじく、業態によっては、前年同月と比較して90%以上売上が減少した事業者も少なくない。雇用調整助成金やその他政府・地方自治体等からの給付金でしのぐという対応もありうるが、やむを得ず従業員の解雇および雇止めを視野に入れざるを得ない事業者も出てきている。

 では、どのような場合に解雇・雇止めが認められるか。

期間の定めのない労働契約(解雇)

 解雇については、労働契約法(以下「労契法」という)16条により、

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

とされている。そして、経済的な理由による整理解雇の場合にもこうした解雇規制が適用される。

 この点、期間の定めのない労働契約を締結している従業員(いわゆる正社員)の整理解雇について、判例は「整理解雇の四要件」と呼ばれる基準をもとに解雇の合理性について判断を行っている(東洋酸素事件・東京高判昭54・10・29労民30巻5号1002頁)。

 すなわち、
① 人員削減の必要性、
② 解雇回避努力義務を尽くしたこと、
③ 人選の合理性、
④ 手続の妥当性

である(なお、かつての裁判例においては、これら4つの事項すべてを満たす必要があるとされていたものの、近年ではこれらの事情を総合的に考慮する裁判例が増えている。「要件」ではなく「要素」と考える必要がある)。

 コロナ禍の影響による整理解雇についても、同様の基準で判断されることとなる。

人員削減の必要性

 外出自粛をはじめとするコロナ禍の影響の度合いや事業者の経営状況など、具体的な事情によって異なってくることはもちろんであるが、たとえば、従前より資金繰りが厳しいなどの事情があったなか、外出自粛により事業所が閉鎖され、再開の見通しが立たないといった事情があれば、人員削減の必要性(①)が認められる要因となる。

解雇回避努力義務を尽くしたこと

 解雇回避(②)のための具体的な内容としては、たとえば配転、出向、一時帰休、希望退職募集といったものが一般的であるが、このほかにも、様々なコスト削減措置がありうる。雇用調整助成金等の行政支援を活用できるか検討を行うことも考えられる(なお、阪神・淡路大震災の影響による業績の悪化を回避するのに雇用調整以外の方法がなかったとはいえない等として整理解雇を無効とした裁判例がある。コンテム事件・神戸地決平7・10・23労判685号43頁)。

人選の合理性

 人選の合理性(③)については、事業所を閉鎖してすべての従業員を解雇する場合であれば問題にはならないが、一部従業員だけを解雇し、その他の従業員は引き続き雇用を続けるといった場合は問題となりうる。

 この場合、客観的で合理的な基準を公正に適用して行うことが重要となる(震災により著しい被害を被ったことから整理解雇の必要性は認めたものの、人選の基準が客観的合理的でないとして整理解雇が無効とされた裁判例がある。北越製紙新潟工場事件・新潟地判昭44・1・7労民20巻5号1257頁)。

手続の妥当性

 手続の妥当性(④)が認められるためには、労働協約において求められる労働組合との協議義務を果たすことや、労働組合がない場合でも、労働者に対して説明を行い誠意をもって協議する必要がある。もちろん、求められる努力は事業者の状況によっても異なってくるため、できる限り可能な範囲で行うしかない。

 したがって、労働者とよく話し合い、通常より有利な退職一時金を支給したり、転職サービスの費用を援助するといった退職パッケージなどとともに退職勧奨等を行うなど協議をしたうえで、それでも状況が改善できない場合に整理解雇を行うこととなるが、実務的には、その協議の過程で労働者の理解を得て合意で退職に至ることが多い。

期間の定めのある労働契約(期間途中における解雇および期間満了に伴う雇止め)

 パートや契約社員などの期間の定めのある労働契約を終了させる場合、①契約期間途中における解雇または②契約期間満了に伴う当然終了かつ契約の不更新(雇止め)の2つの方法が考えられる。

期間途中における解雇

 まず、期間途中における解雇については、労契法17条1項に特別の規定があり、

やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」

とされている。

 すなわち、今回のコロナ禍およびその影響が「やむを得ない事由」といえるかが問題となり、この点については具体的な事情により異なってくると思われる。なお、通説によれば期間の定めのない労働契約の場合(労契法16条)よりも解雇の有効性は厳しく判断されることとなる(土田道夫『労働契約法(第2版)』(有斐閣、2016)783頁ほか)。

期間満了に伴う雇止め

 また、雇止めを行う場合、形式的には期間満了によって契約は当然に終了することとなるが、労契法19条により、

(a)過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの(同条1号)や、

(b)労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの(同条2号)

については、解雇権濫用法理と同様に、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ときは、雇止めが認められない。

 したがって、契約期間の満了であっても当然に雇止めが認められるわけではないことに留意が必要である。

採用内定(取消し)

 採用内定について、判例および通説は、始期付解約権留保付労働契約の成立と解しており、採用内定取消しの適法性は、留保解約権の行使が客観的に合理的で社会通念上相当として認められるか否かを基準として判断されることとなる(大日本印刷事件・最二小判昭54・7・20民集33巻5号582頁)。

 具体的には、上記整理解雇の四要件に準じて判断されることとなるだろう(ただし、既就労者により先に削減対象となるのはやむを得ないと考えられる)。なお、使用者が新規学卒者に対し内定取消しを行う場合、あらかじめ所轄の公共職業安定所長または関係の施設(学校)の長にその旨を通知することとされている(職業安定法施行規則35条2項2号)。

執筆者プロフィール

日本およびニューヨーク州弁護士。ビジネス法務全般・労働法・M&Aのほか、ベンチャー支援を主要業務とする。厚生労働省において労働基準行政に関わるほか、大手企業での勤務経験を通じビジネスの現場にも精通するなど、実務に即したアドバイスを得意とする。2017年厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」委員就任。

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