コロナ禍における現代奴隷、労働者搾取防止のための取組み :英国・豪州奴隷法における「ガイダンス」を手掛かりに

会社法務
※ウイルスはデフォルメしたイメージです。実在するものではありません。

豪州現代奴隷法とコロナ禍の対応

豪州現代奴隷法の概要

 豪州現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)の適用対象となる企業は下記のとおりである(同法5条参照)。

(a) 12カ月の事業年度中、1億豪州ドル以上の連結収益高(Consolidated Revenue)を計上しており、かつ、

(b)当該事業年度中に存在している豪州企業または報告期間中のいずれかの時点で豪州において事業を営んでいる外国企業(以下、総称して「報告企業」という)

 報告企業は、下記の事項を現代奴隷ステートメントに記載し、政府に対して報告する義務があり、報告されたステートメントは、政府によって一元的に管理され公表される(同法18条および19条参照)。

①報告企業の特定情報

②報告企業の構造、運営、サプライチェーンの説明

③報告企業および報告企業が所有または支配する企業の、運営およびサプライチェーンにおける現代奴隷リスク

④報告企業および報告企業が所有または支配する企業によってとられた、デューデリジェンスおよび是正プロセスなど、リスク評価および対応策

⑤報告企業の当該措置の有効性評価の方法

⑥報告企業が所有または支配する企業等との協議プロセス

⑦その他、報告企業等が関連すると考える情報

 なお、報告企業が報告義務を懈怠した場合には、違反企業は政府によって、企業名を公表され得る(同法16A条4項参照)。

 また、報告企業の要件に該当しない企業であっても、豪州企業または豪州において事業を営んでいる外国企業であれば、自主的に報告することができるが、この場合も報告義務に基づく報告と同様、各法定の要件を満たす必要がある。

コロナ禍における「ガイダンス」

 2020年4月21日、豪州現代奴隷法を管轄する豪州国境警備隊は、COVID-19感染拡大下において、工場の閉鎖、発注取消し、人員削減、サプライチェーンの変更等により、現代奴隷またはその他の労働者搾取リスクが高まるだけではなく、また、収入の減少およびこれに対する恐怖、労働者の権利意識の低下、生産能力を補うための時間外労働の要請、サプライチェーンの不足による需要の増大、母国への安全な帰国方法の欠如等により、労働者が現代奴隷状態により陥りやすい状況にあることを指摘した。そのうえで、COVID-19関連のアップデートの一環として、取締役会または経営幹部らに現代奴隷リスクに関する情報を提供し、社内のサステナビリティ、人権または現代奴隷にかかわるワーキンググループを利用し、対応措置をとるべきであるとのガイダンスを公表している。

 また、企業が当該事業またはサプライチェーンにおける労働者保護・支援としてとり得る措置として、以下の点を具体的にあげている。

  • サプライヤーとの関係を維持し、COVID-19リスクに関するコミュニケーションを強化するための取組み
    • サプライヤーのキャッシュフロー維持支援を目的とした、完了済作業に対する支払および発注の延期
    • 合理的理由のない契約の変更またはサプライヤーへの割引要請の回避
    • 労働者に対する保護措置を講ずることや病気休暇・手当の付与、感染リスクを最小化するための工場および建物内の清掃の強化など、COVID-19から労働者を保護するためにとられている措置に関する情報について、サプライヤーからの聴取
    • 労働者の賃金や一定期間の休暇の保証など、感染した労働者の支援のために、サプライヤーと協働して実施することのできる措置の有無について、サプライヤーからの聴取
    • 新たなまたは変更された発注によって、サプライヤーが追加で労働者を雇用するまたは現在の労働者に対して追加の労働時間を課す必要が生じるか否かについて、サプライヤーからの聴取
    • 既存のサプライヤーに対するデューデリジェンスおよび改善措置(ホットラインなど、労働者による苦情処理手続も含む)の継続、および変化し続けているサプライチェーンおよび労働力の構造に関連するリスクを特定し、対応するのに必要な場合のデューデリジェンスおよび改善措置の調整
  • サプライヤー、労働者、同業者、投資家、市民社会および事業者団体との協働による取組み
    • COVID-19の影響に関連する現代奴隷リスクに関する、労働者への情報提供・教育
    • 人員削減の影響を緩和するために労働者の再配置
    • 適切な保護装置、自主的隔離期間における休暇および給与、自主的隔離のための安全場所などの提供による、病気および関連する影響からの労働者の保護措置
    • 移民労働者の安全な帰国の支援
  • Business & Human Rights Resource Center等の主要なウェブサイトにおける現代奴隷防止のための取組みに関する国際的な資料のレビューおよびサプライチェーンにおける適正業務を支援するガイダンスの可及的速やかな導入

 なお、同ガイダンスは、さらに、COVID-19による影響により、報告対象事業年度に予定されていた現代奴隷防止のための取組みについて遅延・変更等の影響を生じた報告企業は、みずからの現代奴隷ステートメントにおいて、その影響の内容や報告対象期間終了後・報告前にとられた措置についても記載することを推奨している。

報告期限の修正

 また、豪州現代奴隷法上、報告が義務づけられる取組みの対象事業年度は、2019年1月1日以降に始まる事業年度であり、提出期限は、当該報告対象事業年度の終了日から6カ月以内となっていた。もっとも、新たなガイダンスとして、COVID-19感染拡大下でのリスク評価の見直しを期待し、報告対象期間が2020年6月30日までに終了する報告企業については、3カ月間の期限の猶予が与えられている。具体的には、各事業年度の期間のパターンごとの、当初の報告対象期間および報告期限の具体例は以下のとおりである。

事業年度期間当初の報告対象期間報告期限
7月1日から翌年6月30日2019年7月1日から2020年6月30日2021年3月31日まで
1月1日から翌年12月31日2020年1月1日から2020年12月31日2021年6月30日まで
4月1日から翌年3月31日2019年4月1日から2020年3月31日2020年12月31日まで

おわりに

 以上の英国および豪州政府によるガイダンスは、サプライチェーン等における現代奴隷防止のための取組みを実施している、または実施を検討しているいずれの日本企業にとっても、コロナ禍における同取組みに関する具体的な指針となり得るものである。また、今後、機関投資家や国際人権団体などからも、注目されるポイントになり得る点についても留意が必要となる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました