MUFG株主総会招集通知にKey Audit Matters!

Opinion

データアナリスト 三井千絵

 この記事は2020年6月15日にスチュワードシップ研究会ホームページに掲載されたブログ記事(「株主総会招集通知にKey Audit Matters!」)を、一部修正加筆したものです。

 今年はKey Audit Matters(監査上の主要な検討事項、以下「KAM」)の早期適用開始の年だ。しかし、新型コロナウイルス感染拡大やそれに伴う緊急事態宣言の発令により決算・監査の作業が困難を極め、早期適用企業は出てこないのではないかと心配していたところだ。そのような中で、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下「MUFG」)が株主総会資料に含まれる監査報告書にKAMを記載して発表したことには大いに驚かされた。

KAMは有価証券報告書だけ?

 来年(2021年3月期)から適用(今年は早期適用可能)されるKAMは、金融商品取引法に基づく(すなわち有価証券報告書に添付される)監査報告書だけが適用対象となっている。

 有価証券報告書は、大抵の場合、株主総会終了後に提出されるため、株主総会資料である会社法に基づく監査報告書にも適用して、議決権行使の参考情報にしてほしいという意見はあったものの、この3月期決算から適用される改正会社計算規則(令和元年法務省令第54号)においても、KAMの記載は求められていない。ただし法務省は、KAMは「会計監査人の監査の方法及びその内容」(会社計算規則126条1項1号)に含まれると解釈しており、KAMを任意に記載することは可能だと説明している(「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」2019年12月27日)。

 とはいえ、そうでなくても新型コロナウイルス感染拡大の影響で決算・監査が遅れている今年の状況の中で、まさか株主総会資料にKAMが記載されるなどとは誰も予想せず、MUFGの開示は投資家、関係者を驚かせた。株主に発送された事業報告(ウェブにも掲載)には単体の監査報告書が、ウェブ開示の資料(「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」)には連結の監査報告書が掲載されている。そしていずれの監査報告書にもKAMが記載されていた。MUFGの連結監査報告書の日付は5月14日となっている。決算短信が発表されたのは5月15日なので、監査は決算短信提出前に完了したようだ。

連結のKAM

 それでは実際に記載されたKAMを見ていきたい。まず連結の監査報告書にはKAMは2項目記載されている。

1 貸出業務における貸倒引当金の算定
2 買収・出資に伴うのれん及びその他の無形固定資産の評価

貸出業務における貸倒引当金の算定

 1つ目をKAMとした理由は、子会社の貸出業務のために計上されている貸倒引当金が適切に算定されないリスクを考慮したからだ。そもそも、貸倒引当金の算定プロセスには、貸出先の債務変換能力の評価、担保の価値評価、過去の実績を基に算定した損失率への将来見込み等による調整といった種々の見積りが含まれており、そうした見積りは貸出先の将来の業績回復見込みや事業の継続可能性の判断に高度に依存している。

 今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、そうした見積りやその仮定は非常に不確実性の高いものになっている。「したがって、これらの重要な見積りや当該見積りに用いた仮定の検討を含む特定の貸出先の内部信用格付及び追加引当額の妥当性は、当監査法人の監査上の主要な検討事項である。」とされたのだ(参考①、参考②)。

 これに対し、監査上の対応としては、貸出先の内部信用格付・追加引当額の決定に関わる内部統制の有効性と、それらに関連した根拠資料の妥当性を評価した、とある。信用リスク評価に関わる内部専門家を利用し、利用可能な企業外部の情報と比較を行い合理性を評価した、と記載されている。この手続は特段新しいものではないようだが、確かに今年はKAMとして採用されていると安心感がある。

参考① 連結計算書類に係る会計監査人監査報告書謄本

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由
 貸倒引当金の算定は、内部規程として予め定めている資産の自己査定基準及び償却・引当基準に則ってなされている。しかしながら、その算定プロセスには、貸出先の債務償還能力を評価・分類した内部信用格付の決定、貸出先から差し入れられた担保の価値の評価、及び、過去実績を基に算定した損失率への将来見込等による調整といった種々の見積りが含まれている。

 特に、貸倒引当金の算定における重要な要素である内部信用格付は、貸出先が業績不振や財務的な困難に直面しており、将来の業績回復見込や事業の継続可能性の判断に高度に依存して決定される場合がある。このような特定の貸出先の将来の業績回復見込や事業の継続可能性は、貸出先企業内外の経営環境の変化による影響を受けるため、見積りの不確実性や経営者による主観的な判断の程度が高い。

 また、「追加情報」に注記されている新型コロナウイルス感染症の拡大に対する貸倒引当金の計上額(以下、「追加引当額」という。)は、貸出先企業への当該感染症拡大が及ぼす影響を考慮し、貸出先の財務情報等に未だ反映されていない信用リスクの増大を見積ることにより算定されている。その算定プロセスには、当該感染症拡大が将来の業績に重要な影響を及ぼすことが見込まれる貸出先の範囲(特定の業種や地域)についての仮定、及び、当該業種や地域に属する貸出先の将来の業績悪化による内部信用格付の下方遷移についての集合的な見積りが含まれている。これらの重要な仮定や見積りには、当該感染症の広がり方や収束時期に関して会社自らが置いた仮定が反映されているが、当該仮定には統一的な見解がなく客観的な情報を入手することが困難であるため、見積りの不確実性や経営者による主観的な判断の程度が高い。

 特定の貸出先の内部信用格付の決定、及び、追加引当額の決定に係る経営者の重要な見積りや当該見積りに用いた仮定が、貸出先の信用リスクを適切に反映していない場合には、結果として貸倒引当金が適切に算定されないリスクが潜在的に存在している。したがって、これらの重要な見積りや当該見積りに用いた仮定の検討を含む特定の貸出先の内部信用格付及び追加引当額の妥当性は、当監査法人の監査上の主要な検討事項である。
以下略

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」

参考② 連結注記表・連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記

5.会計方針に関する事項
⑹ 貸倒引当金の計上基準
(追加情報)

 当社の重要な子会社である株式会社三菱UFJ銀行(以下、「三菱UFJ銀行」という。)及びその一部の連結される子会社では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による取引先の経営状況及び経済環境全体に及ぼされる影響を考慮し、取引先の財務情報等に未だ反映されていない信用リスクに対する影響額を見積り、貸倒引当金を45,347百万円計上しております。

 この算定プロセスには、重要な影響が見込まれる取引先の範囲の選定(特定の業種や地域)、特定のシナリオに基づく将来の経済状態の想定、当該業種や地域に属する取引先の将来の内部信用格付の下方遷移の程度に関する集合的な見積り等が含まれます。感染症の広がり方や収束時期等に関しては、参考となる前例や統一的な見解がないため、三菱UFJ銀行及びその一部の連結される子会社は、収束時期を2020年12月末頃と想定する等、一定の仮定を置いた上で、入手可能な外部情報や予め定めている内部規程に則った経営意思決定機関の承認等に基づき、最善の見積りを行っております。

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」

次頁では、連結計算書類に係る監査報告書に記載されたKAMのうち、海外行の買収に伴うのれん・その他の無形固定資産の評価、さらには単体の計算書類についても紹介する。

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