対談ウィズコロナの人材マネジメント①給与、報酬の本質は?

人事・労務

報酬制度改革と《人件費のコントロール》

 川上:いま世界では、まさにトータルリワード戦略の中で報酬を捉えなおすという流れが来ている。日本では、ジョブ型(職務給)の人事制度というものが、人件費のカットだけを目的とした制度改革に活用されているケースも見かけられるが、本来はトータルリワード戦略の中で位置づけられるものであり、その意味では『社員に給料は保障されているものだ』という意識が強すぎる日本のような国においてはジョブ型の採用には一定の意義があると考えられる(トータルリワード戦略の中でのジョブ型の意義については次回で解説)。ところが、日本の報酬制度の考え方には、世界の潮流は全く反映されていない。日本では、その社会特有の事情によって報酬制度の流行り廃りがある。どういうことなのか。

 日本において、ジョブ型(職務給)が重視されるのはどういう時期だったのかを考えてみるとわかりやすい。前回は1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて流行した。当時日本では大きな変化が起こっていた。拍子抜けされるかもしれないが、それは団塊の世代が50代に差し掛かったということだった。それにより人件費が激しく高騰しつつあったのだ。

 当時、採用されていたのは職能資格制度による《職能給》。職能給、すなわち個々人の能力に応じて給与が決まると言えば聞こえはよいが、実態としては、年齢給に変容していた。年齢給となると、年齢が上がっていけば給与はどんどん高くなる。団塊の世代というボリュームゾーンの給与が膨れ上がり、これが企業のアタマを悩ませていたというわけである。そこで考えられたのが、ジョブ型に変える=職務にお金を払う、というやり方だった。そうすれば、その職務に従事する人の年齢は報酬とは無関係になる。

 要は当時のジョブ型の流行の本質は、人件費のコントロールだったといってよい。

 しかし、現実問題として、職務給に切り替えるのは手間がかかるし大変なことである。低いポジション(職務)に異動させたからといって、簡単に給与を下げることはできず、あまり広がらなかった。そのなかで、実際のところは、早期希望退職制度や役職定年を活用するなど、他の方策でもってのりきったのだ。

 実は、今まさに同じことが起こりつつある。それは何か。バブル入社世代が50代に差し掛かっているのだ。定年も60歳、65歳まで広がっているので、当時よりもさらに人件費のコントロールが求められており、いよいよジョブ型を本気でやらなければいけない状況になっている。世界の潮流やコロナ禍の影響で、とうことではないのだ。

 ふと、なぜこれだけグローバルな競争が増している中でそんなことになるのかと疑問に思うだろう。実際、海外の企業は外国人材の採用を推し進めている。海外のグループ企業でも(本国と)同じ制度を使って雇用している。世界全体から人材を採用していると、世界の報酬の潮流に応じた報酬を導入していないと、優秀な人材を集められにくくなるからだ。

 しかし、日本は、日本国内で外国人の採用のニーズがない。海外の日本法人については、現地独自の報酬制度を導入しているケースも多い。そのため、世界全体の報酬の流行りに合わせる必要を感じていないのだ。肌感覚としては、10年から20年ほど世界の潮流とはずれているのではないか。先ほど阿部さんが、金銭報酬・非金銭報酬のサイクルが10年くらいと指摘されたが、整合的だ。

付け焼刃の改革はデジャヴでしかない

 阿部:確かに改革は喫緊の課題だが、その先にある革新とか、本当のグローバル化ということを考えたときに、付け焼刃の改革で大丈夫なのか。長期的な将来像を考えたときに、とりあえずジョブ型を入れてという改革でよいのか。もっと抜本的に見直さなければ、5年10年経ったときに、結局大々的にリストラをして士気が落ちてということが繰り返されるんじゃないか。そして、また《失われた20年》がやってくる。そうならないための工夫が何かということが大切だと思う。

 川上:その工夫が《トータルリワード》という考え方になるだろう。それは、エンゲージメント論とかWell-Beingとかinclusionにもかかわってくる。抜本的な改革のためには、日本の中でトータルリワードという考え方を広めていくことが必要になる。

 阿部:その意味で、この10年成長した会社は良い見本になるはず。それらの人事制度の共通点は何か。

 川上:人事制度をいじくらなかった会社だ。人事制度ではなく、人材そのものに焦点を当てた会社、すなわち採用や育成を怠らなかった会社が伸びている。

 そうした会社では、主に管理職の人たちのマネジメントのやり方を切り替えている。たとえば良い人材を採用してきたときに、その人たちの強みを活用できるようなかたちで育成するとか、後ほど(次回)解説するが、タレントマネジメントに力を入れた会社は競争力を有しているようにみえる。

 また、そのような会社では、人材に対する考えが確実に変わってきている。純粋にコンピテンシー、成果を生み出せる能力だけをみていて、経歴をみていない。そうした採用を行っている会社を調査すると、100人くらいの新卒入社で大学名・学部名がまったく違っていたという結果も出ている。とにかく東大優先といったようなありがちな学歴採用とは全く違う。もちろん、東大を否定するわけでもないし、優秀な学生もたくさんいる。ただ、そもそも東大生だから採りたいなどと考えている会社の見通しは暗いのではないか。

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