コロナと戦う開示⑯夢の国を想う顧客や従業員に対するオリエンタルランドの取組み

会計・監査

データアナリスト 三井千絵

注:本記事は1月21日に脱稿したものである。同月28日に発表された第3四半期決算(決算短信決算補足資料)については、記事の本旨に大きく影響するものではないため、注記での言及にとどめた。

 2020年1月27日、オリエンタルランドは翌28日から東京ディズニーリゾートで働くスタッフ2万人にマスクの着用を認めたというニュースが報じられた(日本経済新聞電子版)。国内最初のコロナ感染が報じられてすぐであった。それまでも武漢をはじめ中国からの旅行客が新型コロナウイルスに感染している可能性が高いと指摘されていたが、スタッフのマスク着用については禁じていたのだ。

 また同月31日にはキャラクターとの接触を減らす対策を始めるという発表も行った。その後、3月に休園となった時も、7月に再開した時も、ニュースが伝える東京ディズニーランドの様子は日本国内のコロナによる被害状況の1つの象徴であった。そんなコロナとの戦いが昨年1月以降どのように行われてきたかをホームページ(オリエンタルランド東京ディズニーリゾート)で確認しようとしたが、コロナ対策に関する各報道のもととなる会社発表は見つけられなかった。

コロナ禍「休園」の大打撃、テーマパーク事業

 オリエンタルランドの事業は、報告セグメントである「テーマパーク」「ホテル」の2つと、報告セグメントに含まれない「その他」の事業(イクスピアリ事業、モノレール事業、グループ内従業員食堂運営事業等)で成り立っている。連結社員数は2020年3月末の有価証券報告書で8,034人(臨時雇用者数は17,815人)。この少なからぬ従業員たちにコロナによる休園、時短、入場者制限などが直撃している。

 開園して客を入れれば、ゲスト(オリエンタルランドでは来訪者のことをゲストと呼ぶ)はもちろん従業員も感染リスクにさらされる。国内外に広く熱烈なファンをもつ“夢の国”で、そのゲストが感染するようなことは何としても避けたいところだろう。そのうえ、子供も多く訪れる施設だ。断固として感染を防止しなければならない。だからといって、休園を続ければ収入にならないし、ファンの期待に応えることもできない。さらには、従業員の雇用を守ることもできないのだ。

 オリエンタルランドの2020年度上半期は、まさにこの休園の影響が大きかった。10月29日に開催された第2四半期(上半期)の決算説明会では、冒頭から売上高前年同期比マイナス76.2%1、241億円の営業損失を計上したことが説明された(決算説明資料4頁、決算説明資料(解説付))。主な要因として、6月末まで休園していたこと、再開後も入園者を絞っていることをストレートにあげている。

 オリエンタルランドはテーマパーク事業に集中しているシンプルなビジネスモデルである。このような状況で売上を伸ばすといっても非常に制約が多い(できることが限られている)。しかし、そんな状況下で入園者を増やせないながらも、ゲスト1人当たりの売上を増やそうとチケット価格の改定など細かい努力を積み重ねており、ゲスト1人当たりの売上を売上高の内訳として開示・説明している。実際、このゲスト1人当たりの売上は、前年度比14.1%増えている。

株式会社オリエンタルランド「2021年3月期第2四半期決算説明会」(決算説明資料)5頁

 続けて財務的な努力として、人件費の圧縮、販促やメンテナンスなど諸経費の圧縮、雇用調整助成金などを説明、また休園中の固定費を特別損失へ組み入れたことなど淡々と述べている。

株式会社オリエンタルランド「2021年3月期第2四半期決算説明会」(決算説明資料)8頁

 下期の業績予想については、来園ゲスト数を維持できれば(東京ディズニーランドの場合、開園できれば上限を定めたゲスト数の維持はたやすいのかもしれない)、あるいは開園を続けられられれば、かなりの精度で予想できる2。そうした点を評価して、「オリエンタルランドの開示はわかりやすく良いと思う」と複数のアナリストが感じていた。

 また、資金調達については、コミットメントラインの引上げのほか、社債の発行計画によって手元資金が十分であることを説明している(決算説明資料21頁)。

 オリエンタルランドは19万人近い(2020年3月期有価証券報告書によると189,651人。全株主の98%)個人株主を抱えている。株主優待のチケットを期待して購入するケースが多いだろうが、株主数が多いため株主優待であっても抽選によって入園数をコントロールしている。現在、株価はコロナ前の水準に持ち直している。

決算資料の丁寧な開示

 オリエンタルランドは国外にも個人(195人)を含む872人の株主がいる。決算説明会の資料は、日本語ページ英語ページで完全に同じ構成となっており、すべての資料を英語でも用意しているようだ。

 決算説明会については、決算短信、決算補足資料、決算説明資料、決算説明資料の解説付3などを一括でダウンロードするボタンがついているところが、なかなか利用者(投資家、アナリスト)側の使い方を理解してもらっている感じがする。

株式会社オリエンタルランド2nd Quarter October, 2020 Telephone conference, Voice(動画)

 残念ながら英語ページの決算説明会の音声は日本語である。ただ、上の画像をみてもわかるとおり、右にテキスト(TEXT)が表示されており、何を説明しているのかわかるようになっている。

 そのほかにも決算補足資料(第2四半期第3四半期)が用意されており、これにはBSやPLにハイライトしたり太枠でかこったり、番号を振ってその内訳を詳細に記載したりと、財務諸表とその注記と言ってしまえばそれまでだが、少しでもわかりやすくするための工夫がされている。

コロナと戦う夢の国の工夫

 決算説明会ではコロナ禍に立ち向かう色々な取組みを説明している(決算説明資料22頁以下、「足もとの運営状況」)。

株式会社オリエンタルランド「2021年3月期第2四半期決算説明会」(決算説明資料)23頁

 オリエンタルランドが取り組んだのは、まず感染予防だ。1日の来園者数の上限を5,000人したことだけでなく、アクリル板を入れたり、イベントを縮小したり、冒頭に書いたようにミッキーにゲストが触らないようにした。また、園内の一部の店舗では、メニューを直接渡すのではなく2次元コードで読み取って確認するシステムやセルフレジも導入した。ほかにも9月末に新たにオープンした新エリアがあり、そこにゲストが押し掛けることを避けるため、アプリによるエントリー受付や事前予約制を導入するなどの対応を行った。この新エリアは開園以来最大の投資額である750億円かけて開発したものだが、それまで工事中だったエリアを開放したことで、現在入園者数について「通常時の50%」という制限を実施しているなかで、キャパシティの増加につながったそうだ。

 同時にゲスト1人当たりの売上を引き上げるため、10月からアルコールのテスト販売を始めた。そのほか年間パスポート保有者を対象に来園しなくても公式アプリのオンライングッズ販売を利用できるサービスを始め、その対象をさらに広げ、少しでも売上を伸ばすような取組みを行った。

 なお、次の3月にはチケットに変動価格制の導入を予定している(決算説明資料27頁参照)。変動価格は今の金額を最低金額とした週末などの価格値上げによって、来園数の平準化を狙っている。

 中長期的な成長について、上記のようなチケットの変動価格制やファストパスの有料化といった施策のほか、このような状況下であっても設備投資を続けなければならないという考え方を説明した。そこには新しい施設の建設だけでなく、ESG検討プロジェクトチームを立上げが含まれていた。

 決算説明会の最後に上西京一郎社長は「私が・・・」と一人称で語りかけ、「今回の危機を通じて企業としての在り方を改めて考え、感じたことは、企業としての持続性。サステナブルであることの重要性です」と述べ、「再び非常事態に見舞われた時に、同じことを繰り返すのではなく、もっと迅速に、もっと柔軟に対応できるような企業に生まれ変わること。そのためにはこれまでの収益体制、従業員の働き方、そしてこれを機に急速に進んだITの普及や人々の余暇の過ごし方の変化への対応などを含め、新型コロナウイルス感染症が流行する前から検討してきた経営計画を今ここでもう一度見直す必要がある」と語った。

 従業員についても触れた。「従業員にはたくさん不安を抱かせたことと思います。しかし、『東京ディズニーリゾートが好きだから』、『ここで働きたいから』と、信じてついてきてくれました。・・・従業員は間違いなく当社の財産です」。

株主=ファン(ゲスト)

 オリエンタルランドのステークホルダーには特徴がある。まず前述のように個人株主が非常に多いことがあげられる。その多くはおそらく株主優待パスが欲しい、ディズニーリゾートの熱烈なファンだろう。そうすると、ゲストの満足は多くの株主の満足となる。オリエンタルランドの開示を褒める投資家・アナリストが多いのもそういった背景があるかもしれない。もちろん事業がわかりやすいこともある。

 有価証券報告書の「事業等のリスク」における記載は月並みな羅列にみえるが、対策が明確に記されている項目も少なくない。例えば、以下の災害に関する記述では、その対応策も明示し、ゲストの安心につながるような説明がなされている。

② 災 害

 当社グループの事業基盤はほぼ舞浜に集中しているため、舞浜地区周辺で大地震や台風、火災、洪水などの災害が発生した場合には、施設の被害、交通機関及びライフライン(電気・ガス・水道)への影響、レジャーに対する消費マインドの冷え込みなどが想定されることから、一時的に入園者数が減少し、売上高の減少など当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応策として、災害などによる影響を未然に防止、または被害の度合いを軽減するため、東京ディズニーリゾート各施設における耐震性や防火性などの安全性の配慮に加え、従業員が取るべき措置手順をマニュアル化し、訓練を定期的に行っております。また、事業の継続のための手元流動性確保を目的に、2019年2月には「地震リスク対応型コミットメント期間付タームローン」を再設定しており、有事の際に即時資金調達が可能となっております。

(出所)株式会社オリエンタルランド「2020年3月期有価証券報告書」12頁(「2【事業等のリスク】」、太字筆者)

2万人の従業員はどうなるのか

 2020年12月28日、オリエンタルランドは「アニュアルレポート2020」を公表している。この中身をみてみると、現在準社員が19,267名在籍していると書かれている。この準社員は、実際にディズニーランドやシーの中で、案内、清掃、飲食施設での接客、調理業務、商品販売や在庫管理など、ゲストのハピネスに直結する、ホスピタリティ提供の中心を担うキャストたちで、パートタイム労働者(アルバイト)だ。このほかにも出演者として採用された契約社員もいる。

 決算説明会の資料の中には「人件費圧縮」と説明されており(決算説明資料(解説付)16頁)、実際報道でも正社員賞与7割減、ダンサーなど契約社員には配置転換が行われることが報じられている(日本経済新聞9月14日報道)。9月末までは(つまり前述の決算説明会の報告期間である上半期までは)オリエンタルランドはアルバイトに対しても平均賃金の8割を休業補償として支払ってきたが10月以降維持できなくなるようだ。当面は、園内の人の密度をできるだけ下げて、感染リスクを低減するためにも、準社員など臨時雇用者の仕事を維持し続けることは難しいかもしれない。だからといって、それを無責任に非難することはできない。実際にこのような状況下で「よく頑張っていると思う」という投資家は多い。

 ダンサーについても、特殊技能を必要とする仕事であるから(本人の希望という点も含めて)、その配置転換の実行は簡単ではないだろう。しばらくの間は、コロナ禍以前のような大々的なショーは難しいだろうし、演出自体大幅な変更を余儀なくされそうだ。中間決算で上西社長が「人々の余暇の過ごし方」に触れたように、これからの暮らしの中で夢の国に求められる演出がどのようなものかを模索するほかないだろう。これからの世の中で本当にゲストが夢の国に求めているものは何であるか、そこに変化があるとするのなら、その変化がオリエンタルランドの企業価値にどうインパクトを与えるのか…、今後注視していく必要があるだろう。

  1. 第1四半期が前年同期比マイナス94.9%、第2四半期はマイナス58.6%となっている。なお、本稿脱稿後の2021年1月28日に発表された第3四半期決算では前年同期比マイナス45.0%と回復傾向にはあるものの、いまだ入園者数の制限が大きな影を落としている。
  2. この第 2 四半期決算発表時の業績予想について、2021年1月28日に公表した第 3 四半期累計実績をみると、売上高、営業利益ともに上回っていることがわかる。
  3. 2021年1月28日の第3四半期決算発表では、決算補足資料をもとに説明がなされており、決算説明資料と決算説明資料(解説付)については公表されていないようだ(1月29日ホームページ確認)。

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