対談ウィズコロナの人材マネジメント①給与、報酬の本質は?

人事・労務

阿部直彦ペイ・ガバナンス日本㈱ ✕ 川上 真史ビジネス・ブレークスルー大学教授

 コロナ禍で、雇用をどう守ればよいのかという問題はもちろんのこと、テレワークなどの新しい働き方が導入されたことを踏まえて、人材をどのようにマネジメントしていけばよいのかといった観点からも、各社で試行錯誤が続いている。「人は資産」と口では言いながらも、「コスト」としてしか見ていないような経営者も一定数いるだろうし、危機下においてそのような行動があぶり出されようとしている。
 実際きれいごとばかりでは経営は成り立たない。人材をどうみなして、どのようにマネジメントすれば、会社にとっても、従業員・役員にとっても、さらには会社の顧客や株主にとっても満足度の高い経営ができるのか。
 この対談シリーズでは、人事コンサルタント、報酬コンサルタントの草分け的な存在ともいえる、お二人にお話を伺っていく。

「ジョブ型」雇用はコロナ禍の救世主か?

 阿部:コロナ禍で「ニューノーマル」の掛け声のもと、給与制度評価制度を変えるいいタイミングだと思っている会社が多い。なかでも「ジョブ型」の人事制度がキーワードとして、新聞や週刊誌などでも取り上げられている。この数年、日本企業では、いわゆる働き方改革が進み、職能給から役割給、職務給に移行しつつある。このような流れの中で、今回の「ジョブ型」をどう位置付けて、整理していったよいのか。

 私自身の経験によると、グローバルにリワード制度に関して金銭報酬と非金銭報酬の間でブームが10年周期で生じており、今は非金銭報酬の流れで、Well-Being=心理学的・精神的な報酬制度に人々の関心が移っている。この精神的な報酬の重要性の高まりと、ジョブ型の人事制度の勃興はどう関係しているのか。そもそもコロナ以前に、グローバルな競争が経常化し、多くの日本企業は、それも大手企業になるほど、組織の変革が求められているが、それとあるべき人事制度のあり方はどんな関係になっているのか。

 しかし、「ジョブ型」がそうした変革、すなわちチェンジマネジメントの特効薬足りうるかというと、それは心許ない。なぜなら、「ジョブ型」は変革の材料でしかない。むしろ、結果としては、報酬カット、賞与の削減が進み、そういう憂き目にあった人が半分以上になった時点で組織全体の士気は落ち、エンゲージメントに大きく影響しかねない。そこで注目されているのがWell-Beingだ。今、世界のアカデミカルな研究では、経済学から心理学的なアプローチに軸足を移りつつある。ただ、そういう中で、日本は「ジョブ型」を進め、経済学的なアプローチを重視しようとしている。

 その意味で、今日は、人事における《経済学VS心理学》という流れも踏まえて、給与の本質的なところをお話ししたい。同時に、各企業が《改革》に手を付けていく中で、どうすれば社員の信頼を勝ち得つつ、その改革を成功に導くことができるのかについて議論したい。

 結論からいえば、《トータルリワード》という概念が非常に重要になってくる。この言葉は、ざっくり言えば、社員の動機づけというものを単純に金銭的な報酬だけでなく、福利厚生であったり、教育機会であったり、非金銭的な部分も含めて、広く報酬というものを捉えていこうという考え方である。

 最新のワールド・アット・ワークのトータルリワードの概念図と5年前のモデルと比較してみたものが、図表である。

【図表】トータルリワードの概念図

現在

5年前

(出所)WorldatWork

阿部:現在の概念図の中の『トータルリワード戦略』というところをみると、compensation、Benefits、Development、Recognitionに並んでWell-Beingが加わっている。それから、それらの戦略に影響を与える外部要因(インフルエンス)として、Strategy、Culture、Workforceといった項目があるが、inclusion(多様性の受容)やSoc­­­ial Norms(社会的規範)というWell-Beingに近い言葉も加わっている。5年前に比べると心理的な側面がさらに色濃く出てきているのが特徴だ。まずはこうした人事制度、戦略を取り巻く環境変化から、ご解説をお願いしたい。

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