コロナ禍がもたらす監査上の課題と対応:特に海外拠点に関する業務がネックに

会計・監査

会計上の見積りに関する対応

 前記「監査の実施にあたっての具体的な課題」のうち、決算業務にあたる企業の方と監査人との間で特に議論になっているのが前節③の会計上の見積りに関する対応と考えられる。すなわち、新型コロナウイルスの感染拡大や感染予防措置の強化が続くなか、これが企業活動に与える影響の広がりやその収束時期等をどのように予測し、会計上の見積りに反映させるべきかが関係者による喫緊の課題になっている。

 これについて、企業会計基準委員会において2020年4月9日に審議がされており、翌日に当該審議に関する議事概要が公表されている。議事概要では、会計上の見積りを行ううえで、主に次の点に留意する必要があると考えられるという旨が示されている。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる。
  • 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましいが、それが入手できない場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。
  • 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる。
  • ただし、このような会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合には、追加情報としての開示が求められるものと考えられる。

 また、2020年4月10日に、日本公認会計士協会から「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表されている。同留意事項では、主に次の点が記載されている。

  • 不確実性の高い環境下においても、それを要因として会計上の見積りの監査が困難であることを理由に監査意見を表明できないという判断は、慎重になされるべきである。
  • 会計上の見積りの合理性の判断を行う際には、悲観的でもなく、楽観的でもない仮定に基づく見積りを行っていることを確かめる。監査人が、経営者の過度に楽観的な会計上の見積りを許容することや、過度に悲観的な予測を行い、経営者の行った会計上の見積りを重要な虚偽表示と判断することは適切でない。
  • 会計上の見積りの不確実性が財務諸表の利用者等の判断に重要な影響を及ぼす場合、監査報告書の強調事項も用いて、明確で、信頼でき、透明性のある有用な情報を提供することを検討する。

企業の決算業務や監査業務の遅延に関する対応

 新型コロナウイルスの感染拡大や感染予防措置の強化を踏まえた企業の決算業務や監査業務に対する影響について認識を共有するとともに、制度的な対応を検討するため、わが国では、2020年4月3日に、金融庁が事務局となり、日本公認会計士協会、企業会計基準委員会、東京証券取引所、日本経済団体連合会をメンバー、全国銀行協会、法務省、経済産業省をオブザーバーとする「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」(以下、「本協議会」という)が設置されている。

 本協議会では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の決算業務や監査業務に遅延が生じる可能性が高いという認識が共有されており、それを踏まえ、本協議会またはそのメンバーから、図表のような制度的対応が公表されている。

(図表)新型コロナウイルス感染症への対応

日 付発出者内 容
4月13日金融庁金融機関等(監査法人を含む)に対して、出勤者7割削減を実現するための要請が発出されている。
4月14日同上金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の提出期限について、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本年9月末まで延長する方針を公表している。
同上東京証券取引所上場会社に対して、関係者の健康および安全の確保を最優先したうえで、決算発表日程を再検討する旨のお願いを通知している。
4月15日本協議会新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、主に以下を要請している。
・従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算および監査の業務を遂行していくこと
・企業においては、3月期決算の場合は、株主総会の運営に関し、株主総会運営に係るQ&A(経済産業省、法務省)等を踏まえつつ、適切に対応していくこと
同上JICPA会員・準会員に対して、以下を要請している。
・緊急事態宣言下における政府等の要請を遵守すること
・本協議会からの声明の趣旨を踏まえて、企業の関係者と協力して適切に対応すること
同上同上「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」を公表し、以下を示している。
・有価証券報告書等の提出期限の延長の適用例
・会社法計算関係書類の監査において、例年とは異なるスケジュールによる場合の方法例

 また、4月15日に、わが国における大手10の監査法人から声明文が公表されている。そこでは、金融庁から示された有価証券報告書の提出期限を一律に延期する方針を強く支持するとともに、本声明文に示された株主総会の運営に関する具体的な方策が検討されることを期待するという旨が示されている。

企業の経理担当者が留意すべき事項

 以上を踏まえると、2020年3月期の監査業務は、例年と比べて困難な点が多く、決算業務や監査業務について相当程度の遅延が見込まれる。

 他方で、日本の資本市場の信頼性を維持するためには、高品質な監査業務を維持することは不可欠であり、特例的に監査品質を引き下げるような措置は困難といえる。こうした事情を総合的に勘案すると、特に会社法に基づく株主総会の開催を通常どおりとして業務を進める場合、直前になって監査意見が表明できないという事態も想定し得る。

 このため、企業の経理担当者におかれては、監査人との間で互いの課題を忌憚なく適時に共有したうえで、決算日程の見直しも含めて検討することが、肝要と考えられる。


 元記事(PDF)はこちらをご覧ください(旬刊経理情報2020年5月10日・20号(No.1578)Focusより)。

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