コロナと戦う開示⑩: HISの四半期開示 リスク情報・追加情報

Opinion

シビアなリスクの状況を示す四半期報告書

 前述のとおり、HISは、7月6日に第2四半期報告書を提出した。

 まず「事業等のリスク」として、「新型コロナウイルス感染症拡大・長期化による事業リスク」をあげ、以下のように非常に厳しい状況が感じられる表現を用いた開示を行っている。

 「今後の当社グループの経営環境につきましては、新型コロナウイルス感染症の影響により、極めて厳しい状況が続くと見込まれており、感染症の拡大・長期化が国内外の経済を更に下振れさせるリスクも懸念されます。また、企業収益の減少や雇用情勢の悪化による、個人消費の急速な減少により、業績への影響を及ぼす可能性があります。
 当社グループは、新型コロナウイルスの影響が長期化した場合を想定した資金計画に基づき、固定費用の圧縮や金融機関との協議を実施し、事業資金を確保できる体制を構築しています。これらの対応策を継続して実施することにより、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断し、「継続企業の前提に関する注記」は記載しておりません」

(出所)HIS「四半期報告書(第40期第2四半期)」2頁

 また、財務諸表注記の「追加情報」1にも、次のような記載が行われている。

 「新型コロナウイルス感染症の影響により、世界各国において外出制限や渡航制限が実施されていることを受け、当第2四半期累計期間における当社グループの取扱高は減少し、連結売上高は344,353百万円(前年同期比33,485百万円減)となっております。これらの制限の解除の時期によって当社グループの企業活動は今後も影響を受けることが予想されます。
 当社グループは、国連世界観光機関等が実施する旅行需要の回復時期に関する調査を参考に、今夏以降、国境を越えた移動が徐々に再開された後、旅行者数が段階的に回復に向かい、2022年10月期通期においては、ほぼ過年度の水準まで回復することを見込んでおります。
 当社グループは、固定資産の減損損失の算定において、上述の仮定をもとに将来のキャッシュ・フローを算定しております。この結果、回収可能額が見込めない固定資産1,733百万円について減損損失を計上しております。」

(出所)HIS「四半期報告書(第40期第2四半期)」16

 このように、現時点では2022年10月期でほぼ過年度の水準まで回復と見込みながらも、回収可能額が見込めない部分について固定資産の減損損失として計上している。具体的には、台北市のGreen World Hotelsが新型コロナウイルス感染症による急激な業績悪化によって想定していた収益が見込まれなくなったことにより減損を行った旨が、以下のように記載されている。

「当社の連結子会社であるGreen World Hotels Co., Ltd.において、新型コロナウイルス感染症による急激な業績悪化に伴い、想定していた収益が見込まれなくなり回収可能性が低下したため、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として特別損失に計上しております。なお、回収可能価額は将来の客室稼働率や平均客室単価を基に測定しております。」

(出所)HIS「四半期報告書(第40期第2四半期)」17頁

 正直にいって、これまで紹介してきた開示に比べ、HISの開示は目を引くような力強さはないように見える。説明会資料には、深刻な数字が淡々と記載されており、会社の厳しい状況がひしひしと伝わってくる。社員の休業などについてさらりと書いているが、何らかの補償を受けることができるのかなど、多くの社員が置かれた苦しい状況を思わずにはいられない。もちろん、その一方で何とかして打開しよう、乗り越えようと取り組んでいる努力も見えるのだが…。

 HISは“上手い開示”というわけではなかったが、旅行業の困窮状況をつまびらかに記載している様子に注目した。開示とは関係がないが、厳しい状況であるにもかかわらず、「キズナハナビプロジェクト」といったものも計画しているようだ。これは、クラウドファンディングを用いて費用の3分の2を集め、無観客・日本全国7箇所で打上花火を実施のうえ、音楽付きで映像化し、それをクラウドファンディング支援者に公開するというものである。

 「旅で日本に元気を」との言葉どおり、一刻も早く日本が元気になり、HISの業績自体も回復することを願っている。

  1. ASBJや金融庁の四半期開示に関する考え方はこちらの記事を参照されたい。

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