コロナと戦う開示⑧:ラクーンの楽観・悲観シナリオに基づくレンジ予想

Opinion

将来の見通し・・・難しい時は2つのシナリオを

 続いて業績予想については、ラクーンは「今後、新型コロナウイルスの大規模な再感染拡大が生じない(再度の緊急事態宣言の発動がされない等)ことを前提」とした予想を立てた。

 また、その前提で「発生するデフォルトを悲観的に見積もった場合と楽観的に見積もった場合との両極を想定」し、「レンジでの予想」を開示した。3月決算企業の半数近くが業績予想を開示していない中、この開示は、投資家に大変好評だ。幅があったとしても、数字があげられることで、実際にどれくらいのインパクトがあるかを投資家がイメージしやすく、予測可能性が高まるからだ。

株式会社ラクーンホールディングス「2020年4月期決算説明資料」(2020年6月11日)42頁

 決算説明会でも「3月決算期企業で業績予想を未開示だったところが多くあったことは我々も承知している。しかし我々は比較的予想しやすいし、投資をしていただくのだから開示すべきだろうと考えた」という説明があった。売上は昨年の実績から子会社の買収によるイレギュラー分を除いた数字で予想し、デフォルトがたくさん起きるケースとそれほど起きないケースという2つのシナリオを立てたということだ。

 多くの3月決算企業が業績予想を開示できない理由として「不確実性が高い」といった理由をあげているが、ラクーンの場合は4月決算で1カ月ずれており、緊急事態宣言が解除されてからの決算発表とあって、少し予想しやすかったのかもしれない(ただ、依然として不確実性は高い状況が続いているといえるだろう)。いずれにせよ、ラクーンのように楽観シナリオと悲観シナリオの両方を出すというのは1つのやり方ではないだろうか。

 説明会の最後には、自らのオポチュニティを活かし、業績を伸ばしていくため、どのように顧客にサービスを提案していくか等が述べられた。事業内容がわかりやすいためか、実際の需要や自社の可能性を示す数字が示されていないまでも、それらの説明には納得感があった。

 同日に発表された決算短信においても、以下のとおり「今後の見通し」に、業績予想とあわせて収束時期や将来の影響に対する考え方を示し、楽観シナリオと悲観シナリオの2つを立てたことを記載している(それぞれのシナリオについて、根拠とした数字は述べられていない)。ただし、この決算短信においては、ASBJや金融庁が求めている「追加情報」の開示、すなわち会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方についての記載はない。有価証券報告書には期待したい。

(4)今後の見通し
 2021年の業績予想につきましては、売上高3,900百万円、EBITDA980百万円~1,070百万円、営業利益810百万円~900百万円、経常利益800百万円~890百万円、親会社株主に帰属する当期純利益490百万円~550百万円を見込んでおります。
 現時点において新型コロナウイルス感染症の収束時期は見通しが立たず、当社サービスを利用している企業の今後の経済活動に与える影響は不透明であります。そのため、フィナンシャル事業におけるデフォルト発生等を悲観的に見積もった場合と楽観的に見積もった場合の両極を想定し、利益についてはレンジでの業績予想といたしました。一方、売上高については既存サービスの継続的な事業成長を見込んでおります。新型コロナウイルス感染症により、企業活動に必要なサービスとして当社の各サービスの認知度が向上したことを実感しております。顧客となった企業に対しては継続して利用してもらえるようサービスの利便性向上に取り組んでまいる所存です。一方で、まだ認知されてない潜在的な顧客についても積極的な広告投資により集客に取り組んでまいります。そのため、広告宣伝費については前期積み増しした水準と同程度の金額を見積もっております。
 上記に記載した将来に関する記述は、当社が現在入手している情報及び合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な不確定要素により大きく異なる可能性があります。

株式会社 ラクーンホールディングス「2020年4月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2020年6月11日)4頁

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